第125号

EY・KPMG・デロイトの報告書で露呈した出典検証の問題

EY、KPMG、デロイトの報告書で実在しない引用や不正確な引用が発見されました。調査結果と各社の対応を振り返り、AIを活用する組織がいかに検証時間と責任体制を確保すべきかを考えます。

AI・テックEY・KPMG・デロイトの報告書で露呈した出典検証の問題

公開報告書の出典を再確認した結果

2026年5月のEY、6月のKPMGの公開報告書で出典の誤りが見つかり、報告書が取り下げられました。GPTZeroはEY報告書の参考文献27件のうち約60%をハルシネーション(幻覚)による引用と分類しました。KPMGの報告書については、45件の引用のうち出典を正確に指していたのはわずか5件にとどまったと明らかにしています。**ただし、残る40件のすべてが完全に捏造された文献だったという意味ではありません。**実在する資料のタイトルや著者情報が間違っているケースと、資料を特定するのが困難なケースが混ざっていました。デロイトの事例まで合わせると、ビッグ41のうち3社の報告書で引用検証の問題が表面化したことになります。

AI検出・引用検証ツールを開発するGPTZeroは、こうした誤りを「バイブサイティング(vibe citing)」2と呼んでいます。存在しない架空の出典だけでなく、実在する文献のタイトルや著者などをそれらしく改変した引用も含めた表現です。

私はこれらの一連の事例を見ながら、AIの誤りが最終成果物に残ってしまうまでに、誰が何を検証していたのかという点に関心を持ちました。ツールの精度を高めることと、組織内で出典を確認することは、ともに不可欠です。

GPTZeroが調査したのは、EYカナダの『Points of Attack: Uncovering Cyber Threats and Fraud in Loyalty Systems』と、KPMGの『Total Experience: Redefining Excellence in the Age of Agentic AI』です。両調査で確認された客観的事実と、調査チームによる推定を切り分けて見ていきましょう。

EY:存在しない参考文献と食い違う数値

EYの報告書は、ポイントやマイルなどロイヤルティプログラムにおけるサイバーセキュリティの脆弱性を扱ったものでした。2025年末に公開された44ページの報告書で、2名のパートナーと1名のシニアマネージャーが執筆者として名を連ねていました。

GPTZeroは本文中の引用と報告書末尾の参考文献一覧を照合し、2026年5月14日に調査結果を公開しました。

  • **確認できない出典:**参考文献の多くでリンクが切れているか、記載されたタイトルの文献が見つかりませんでした。ただし、リンクが開かないという事実だけをもって、その文献が最初から存在しなかったと断定することはできません。
  • 架空のマッキンゼー報告書の引用:「Loyalty Economics Report(2022)」という出典は確認できませんでした。調査チームは、同一の出典と類似の主張が、それ以前に別のフィンテックメディアの記事に掲載されていた事実を突き止めました。
  • **互いに矛盾する数値:**前段ではポイント市場全体を2,000億ドル、未使用の割合を30〜50%と説明していたのに対し、後段では未使用ポイントそのものを2,000億ドルと記述していました。同一の母集団に対する数値であれば両立し得ません。
  • **AI検出結果:**GPTZeroはAI検出スコアも提示しました。しかし、検出ツールの数値のみをもって、本文の正確に72%をAIが書いたと確定することはできません。出典と主張を直接突き合わせた結果こそが、より重要な根拠となります。

FT(フィナンシャル・タイムズ)の報道によると、EYは報告書を取り下げ、掲載に至った経緯を精査していると表明しました。顧客向けプロジェクトに関連した報告書ではないとも説明しています。その説明によって公開報告書に対する検証責任が免除されるわけではありませんが、同社が作成経緯やすべてのデータ出典を一切把握していなかったと認めた、とまで拡大解釈することはできません。

KPMG:実在の資料につながるものの内容が食い違う引用

続いて6月12日、GPTZeroはKPMGの報告書に関する調査結果を公開しました。

KPMGインターナショナルは2025年10月、エージェンティックAI3と顧客体験を扱ったこの報告書を発行しました。GPTZeroの分類によれば、45件の引用のうち5件は出典を正確に指しており、28件は実在する資料につながるもののタイトルが改変されていたり構成要素が誤って記載されていたりしました。残る12件は情報が曖昧あるいは誤っており、出典の特定が困難でした。

引用された資料が主張を適切に裏付けているかどうかも問題となりました。GPTZeroは、これらの引用が付された主張の約半数が虚偽であるか、出典の紐付けが誤っていると見られると評価しました。報告書全体のすべての事実を全数検証して半分が嘘だと結論づけたわけではありません。エミレーツ航空の「Sara」をフライト変更が可能なモバイルチャットボットとして説明している箇所もありましたが、Saraは2023年に発表されたチェックイン補助ロボットでした。

自社の他資料と整合しない数値もありました。報告書には「CEOの55%がAIを最優先の投資対象に挙げている」と記され、出典として「KPMGの研究」が添えられていました。GPTZeroは、同月に出された『KPMG CEO Outlook』の71%という数字と乖離があると指摘しました。正確にどの調査のどの設問を引用したのかを確認できて初めて、説明可能な差異なのか、単なる転記ミスなのかを判断できます。

KPMGは社内調査を進める間、報告書をウェブサイトから取り下げたと明らかにしました。人間の監視と独立した出典検証を含む、責任あるAI利用ガイドラインの遵守を求めているという立場も説明しています。

政府報告書や裁判所提出書類、学術論文でも現れた問題

デロイトは2025年、オーストラリア政府の福祉関連報告書において引用の誤りが確認され、報酬の一部を返金することになりました。カナダの州政府向け医療人材報告書でも、存在しない研究や誤った著者情報が指摘されました。公開プロモーション用の資料に限られた問題ではなかったのです。

法曹界でも同様の事態が発生しています。サリヴァン&クロムウェルのパートナーであるアンドリュー・ディートデリヒは2026年4月18日、ニューヨーク連邦破産裁判所に宛てた書簡の中で、提出書類に不正確な引用やAIのハルシネーションを含む誤りがあったことを認めました。AI利用ガイドラインや一般的な引用確認手続きは存在していたものの、今回は適切に機能しなかったという説明でした。

GPTZeroはNeurIPS 2025に採択された論文4,841本を調査したのち、2026年1月に公開したリストにおいて、53本の論文にわたるハルシネーション引用100件を提示しました。AI検出スコアとは別に、人間が出典を確認したと説明しています。ダミアン・シャルロタンが運営するAIハルシネーション判例データベースも、裁判所提出書類に架空の引用が紛れ込んだ事例を収集しています。こうした事例数から特定時点における全体の発生率を算出することはできませんが、専門家のレビューを経た文書にすら誤りが残り得るという点は確認できます。

成果物の検証において点検すべき3つのポイント

公開された調査結果だけで各社の内部事情をすべて推し量ることはできません。しかし、私は組織として次の3点を点検すべきだと考えています。

第1に、公開プロモーション用の報告書であっても検証責任者を定める必要があります。

こうした公開報告書は、潜在顧客に対して自社の専門性をアピールするための資料です。クライアントへ直接納品した成果物でなくとも、組織のブランドを信頼して読む読者が存在します。発行量やスピードを設定する際には、出典を検証するための時間もあらかじめ割り当てておくべきです。ただし、今回の事件の直接的な原因が作成スピードのプレッシャーにあったのか、あるいは社内の確認作業が納品物より緩かったのかまでは確定していません。

第2に、AI利用ガイドラインを成果物の確認作業へと結びつける必要があります。

デロイトのオーストラリア報告書は、修正過程でAzure OpenAIを活用した事実を明らかにしました。サリヴァン&クロムウェルもポリシーや研修は存在していたものの遵守されていなかったと認めています。単にAIを使用したかどうかを開示するだけでなく、誰が原文・数値・引用を確認したのかを記録に残す必要があります。

第3に、他の資料を経由してきた誤りであっても、原典まで遡って確認する必要があります。

GPTZeroは、EYの報告書とそれに先行して発行されたフィンテックメディアの記事に同一の架空のマッキンゼーの出典が登場したことを、「間接的ハルシネーション」4の事例と見なしました。AIがその記事を学習データとして取り込んだのか、検索結果として参照したのかまで実証されたわけではありません。重要なのは、誤った引用が別の文書に再掲載され、その文書がまた新たな根拠として引用され得るという点です。調査チームは、EY報告書の誤りがAI検索の回答にも出現した事例を提示しました。広く知られた機関の文書であっても原典確認が不可欠である理由がここにあります。

Oswarldの視点

私は今回の一件を見ながら、AIの誤りを適切に管理できると謳う組織こそ、実際の成果物を通じてその能力を実証しなければならないと考えました。

GTM戦略を策定する現場で、よく目にする光景があります。新たなツールが登場すると、企業はクライアントへ導入を提案しつつ、自社の内部業務にもそれを適用します。この2つの役割を両立させるには、どのようなリスクが存在し、それをいかに検証しているのかを成果物で示せなければなりません。AIの活用やガバナンスを説く企業の報告書から出典の誤りが発覚すれば、顧客はその企業の検証プロセスそのものに疑問を抱かざるを得なくなります。

**私が特に気に留めているのは、検証にかかる時間です。**たとえば引用1件を確認するのに平均3分かかると仮定すると、27件を検証するには81分を要します。これは実測平均ではなく作業量をイメージしてみるための試算です。作成時間を短縮できたとしても、出典の確認や誤りの修正にどれほどの時間が余分にかかったのかを合算して初めて、AIが真に業務時間を削減したのかどうかを判断できます。

おわりに

報告書を発行する組織であれば、作成スピードとともに検証を完了させるための基準も設定しなければなりません。

  1. 複数の企業で類似の誤りが発生したという事実は、自組織のプロセスを見直す十分な動機になります。ただし、数件の事例をもって業界全体の誤り率や他社の状況まで断定することは避けるべきです。

  2. AI利用ポリシーを策定して満足するのではなく、実際の文書の引用を検証する担当者と作業時間を確実に確保する必要があります。

  3. 出典が実在するかどうかだけでなく、本文の主張を正しく裏付けているかまで検証しなければなりません。タイトルや数値を誤って書き写せば、実在する資料を引用していても読者には誤った説明が伝わってしまいます。

コンサルティング会社の報告書やリサーチ資料を読む際は、主要な主張の出典を自ら直接開いてみてください。文書のタイトル、著者、発行日が合致しているか、その中に同一の数値や説明が存在しているかまで確かめることをお勧めします。

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参考資料と関連リンク

主要出典

背景知識

筆者のアン・グァンソプ(安光涉)は世宗大学経営学科教授であり、INLEVEL9のリードコンサルタントを務める。大学で経営データ管理やビジネスアナリティクスなど統計・データ分析を講じる傍ら、実務の現場ではGTM戦略やAI戦略コンサルティングを指揮し、テクノロジーとビジネスの接点を設計している。AI対話システムの記憶アーキテクチャ(HEMA)研究に関する学術論文を発表しており、世界のAI論文を毎日キュレーションするDaily Arxivプロジェクトを運営中。高麗大学技術経営専門大学院修士課程および同KMBA修了。著書に『思考を委ねる人々:ホモ・ブレインレス』がある。

アン・グァンソプ(Oswarld)のイラスト

著者 アン・グァンソプ(Oswarld) は世宗大学校 兼任教授、INLEVEL9 戦略コンサルタントです。経歴、研究、著書、最近の活動は著者紹介で更新しています。 最近の活動 · 2026年7月:HEMA-2: A Consolidation-Aware Tri-Memory Architecture with Multi-Channel Scheduling for Lifelong Conversational AI。

각주

  1. ビッグ4(Big Four):世界4大会計・コンサルティングファームであるデロイト(Deloitte)、PwC、EY(Ernst & Young)、KPMGを指します。世界中の大企業や政府機関の会計監査、戦略コンサルティング、税務アドバイザリーなどを担う業界最大手です。 ↩

  2. バイブサイティング(vibe citing):AIが生成した架空の出典や引用を、十分な検証を行わずにそのまま利用する行為を指す造語です。GPTZeroの調査で用いられた表現で、実在する出典のタイトルや著者をそれらしく改変した引用も含みます。 ↩

  3. エージェンティックAI(Agentic AI):与えられた目標を達成するためにタスクを分解し、必要なデータやツールを活用しながら自律的に複数ステップの処理を実行するAIシステムを指します。自律的に処理する範囲は設計や付与された権限によって異なります。 ↩

  4. 間接的ハルシネーション(secondhand hallucination):AIが生成したと見られる誤った情報が他の文章やAIの回答の中で再び引用・再生産される現象を指します。誤りが伝播した経路が学習データ経由なのか検索経由なのかなどは個別に確認する必要があります。 ↩