第346号

「真っ先に潰れる」と言われたFigmaは、なぜAIの作業台になったのか

CanvaもWebflowもChatGPTに組み込まれました。それなのに、コーディングエージェントがデザインを取りに行く場所はFigmaです。

ビジネス「真っ先に潰れる」と言われたFigmaは、なぜAIの作業台になったのか

「Figmaから潰れる」という話はどこから出たのか

読者さん、生成AIが画面案を数秒で描き出し始めたとき、真っ先に姿を消すソフトウェアとしてFigmaを挙げる人が多くいました。言葉で説明すればAIが画面を作ってくれるのに、人間が四角形を一つずつ描くツールがなぜ必要なのか、という論理でした。

市場もその話に反応しました。2025年7月31日の上場初日に取引時間中で142.92ドルまで上昇した株価はその後下落を続け、2026年4月17日にAnthropicがプロンプトからプロトタイプやスライドを作成するClaude Designを発表した日には、1日で7%下落しました。2026年上半期だけで株価は51.6%も下落しました。

figma stockところが、プロダクト側で起きたことは正反対に近いものでした。OpenAIが2025年10月にChatGPT内で外部アプリを呼び出す機能を初めて公開した際、Figmaはわずか7社のみのパイロットパートナーの1社でした。Claude Code、Codex、Cursorといったコーディングエージェントは、FigmaのMCP1サーバー経由でデザインファイルを読み取り、2026年3月からはファイルへの直接書き込みまで行っています。GitHubには、Figmaとエージェントをつなぐサーバーやスキルが蓄積され続けています。2026年第2四半期の売上高は3億7,010万ドルと前年同期比で48%増加し、3四半期連続で成長率が高まりました。

そこで今号の問いはこれです。潰れると言われていたFigmaは、どのようにしてAIが仕事をしに訪れる場所になったのでしょうか。同じ時期にCanvaやWebflowもAIと手を組みましたが、なぜとりわけFigmaがその座に就いたのでしょうか。

10月29日、Figmaが公開した「Figmaファイルを理解するモデル」

この問いを解く手がかりが3日前に出ました。Figmaのソフトウェアエンジニアリング担当バイスプレジデントであるジョシュ・クレム(Josh Clemm)氏が、10月29日に自社ブログへ『How we’re training a Figma-fluent editing model』を投稿しました。Figmaのエージェント内でデザインの修正を担う独自モデルを、どのように学習させているかを解説した記事です。

出発点が率直です。最初にこの取り組みを始めたとき、フロンティアモデルはFigmaの構文を理解できず、システムプロンプトで教え込もうとすればトークンを到底賄えないほど消費してしまったといいます。そこでFigmaは方向転換しました。元のデザイン、合成した修正リクエスト、適切に修正された結果を1組にしたサンプルを25万件以上用意し、それらのサンプルをすべてFigma固有のファイル形式で表現したのです。そのデータで前世代のLlama 3.3 70Bモデルを教師あり微調整2したところ、当時の最上位モデル群と渡り合えるほどの修正性能が得られたといいます。

学習データを作る手法も見どころです。より巨大な教師モデルがまず修正を試み、その結果が有効な出力であるか、リクエストを実際に満たしているかを、ルールベースの検証器と視覚判定モデルで選別しました。ただし、模範解答を模倣させる方式は、学習時に見たものと似たデザインしかうまく作れず、汎化性能が弱くなるという限界があるため、現在は強化学習3に投資していると明かしています。基盤モデルもQwen系列のような、より新しいオープンモデルへと移行を進めているところです。

私が最も注目したのは役割分担です。画像生成、ベクター作業、まったく新しいデザインの探索には外部の最も優れたモデルを使い、すでにキャンバス上にあるデザインを精密に手直しして磨き上げる作業には自社モデルを使っています。モデルを選ぶ基準も二つです。Figma内で指示にどれだけ忠実に従えるか、そしてその作業をどれだけ速く、安価にこなせるかです。

同日、Canvaもデザイン修正向けの独自ビジョン・言語モデルBrushを発表しました。オープンウェイトモデルを出発点としてデザイン・編集タスク向けに事後学習を行い、以前のデザインエージェントと比べて一般的な編集作業が最大69%高速化し、作業あたりのコストは46%低減したと公表しました。2社が互いに言及することなく、同じ結論にたどり着いたわけです。新しく描き出す作業よりも、すでにあるデザインを手直しする作業のほうがはるかに頻繁に発生し、その作業は自社のファイルを最もよく知るモデルに任せるほうがよい、という結論です。

CanvaやWebflow、Gammaも参入 担う位置の違い

ここで問いを一度、正確に整理し直す必要があります。事実関係だけを見れば、CanvaやWebflowがAIエコシステムに入り込めなかったわけではありません。

CanvaはChatGPTアプリのパイロット7社にFigmaと並んで名を連ねました。2026年2月にはCanva MCPサーバーを通じてChatGPT、Claude、Microsoft Copilot内で作成されたデザインが1,200万件を超えたと発表し、2025年末の年間反復収益(ARR)は40億ドルでした。Webflowも2026年7月1日にChatGPTアプリをリリースし、同月21日にはMCP 2.0を公開しました。Webflowは企業顧客の30%以上がMCPを積極的に利用しており、そのユーザーの90%近くがClaudeに接続していると明らかにしています。

したがって、違いは参入したかどうかにありません。3社のファイルがAIのワークフローの中で担う位置が違うのです。

区分CanvaWebflowFigma
主に残すもの完成したポスター・スライド・SNS画像実際に稼働するウェブサイト何を作るか合意した画面とルール
その後それを使う側見る人サイト訪問者開発者、そしてコーディングエージェント
AI対話における役割完成品を出力する出口サイトを修正・運用する窓口コードを書く前に読み取る基準

Canvaの成果物は、大半がそこで完結します。スライドであれポスターであれ、人間が見れば作業は終わりです。そのためChatGPTの中でCanvaは、「この概要でプレゼン資料を作って」という指示を受け、完成品を返す出口の役割をうまく果たします。ただし、出口になると生成コストも丸ごと抱え込むことになります。Canvaは2026年8月の投資家向け書簡で、同年の売上成長率の見通しを30%から20%へと引き下げましたが、AI機能を提供するコストが予想以上に膨らんだためでした。第2四半期の売上高は9億2,190万ドルで25.2%増えており、成長が止まったわけではありません。自らスピードを落としたのです。

Webflowの成果物はウェブサイトそのものです。しかし、ウェブサイトをコードで書く作業は、現在コーディングエージェントが最も急速に得意としつつある領域の一つです。WebflowがMCP 2.0において、ブランドルール、権限設計、テスト、作業ログといったガバナンス機能を前面に打ち出したのは、そのため自然に見えます。サイトを作るツールから、サイトを安全に運用するための基盤へと重心を移しているのです。

Figmaのファイルは性質が異なります。Figmaの画面は最終成果物ではなく、中間成果物です。チームがどのボタンを使い、色や余白をどのような変数として定義し、画面がどのようなフローで遷移するかを合意した記録なのです。人間が見て完結するのではなく、誰かがそれを見て改めてコードを作ります。AIがコードを書き始めると、その「誰か」にエージェントが加わりました。

Figmaファイルがエージェントの作業指示書になった経緯

Figmaがここ1年間で行ってきたことを辿ってみると、この中間成果物をエージェントが読み書きできるようにすることに集中していました。

まずは「読み取り」です。FigmaのMCPサーバーは、選択したフレームのデザインコンテキスト、変数定義、スクリーンショットといった情報をエージェントへ渡します。Code Connectを連携させておけば、デザイン内のコンポーネントが実際のコードベースにおけるどのコンポーネントなのかまで教えてくれます。エージェントの立場からすれば、「青いボタン」ではなく「自チームのPrimaryボタンコンポーネント」を受け取ることになるわけです。サポートクライアントの一覧には、Claude Code、OpenAI Codex、Cursor、VS Code、Gemini CLIなどが名を連ねています。

次は「書き込み」です。2026年2月には、Claude Codeで作成した実際の画面を編集可能なFigmaデザインとして取り込むフローと、CodexからFigmaデザインファイルを生成するフローを相次いで発表しました。3月24日には、コーディングエージェントがデザインファイルへ直接書き込めるuse_figmaツールをベータ版として公開しました。ここにスキルを紐づければ、どのツールをどのような順序で呼び出してチームのルールどおりに作業するかをエージェントに指示できます。Figmaは、2026年第1四半期だけでFigmaデザインのMCP週間アクティブユーザーが5倍に増えたと明らかにしました。

figma ai survival最後はキャンバス内のエージェントです。5月20日にベータ版として開始したFigmaエージェントは、チームが実際に使用しているコンポーネント、スタイル、変数、ライブラリをそのまま使って画面を作成・修正します。10月に入って全ユーザー向けに開放され、10月29日に公開された自己修正モデルも、まさにこのエージェントの中に組み込まれています。

数字も同じ方向を指し示しています。2026年6月末時点で年間反復収益(ARR)1万ドル以上の顧客の80%以上が毎週AIクレジットを使用し、7月31日時点ではその顧客の半数以上が毎週Figmaエージェントを使っていました。同顧客層の純売上維持率4は136%でした。ディラン・フィールド(Dylan Field)CEOは、第2四半期業績のプレスリリースにおいて、コードがありふれたものになるほど、価値はその一段階上へと移っていくと述べました。

整理すると、FigmaはAIと戦って生き残ったのではありません。AIが仕事を適切に行うために開かなければならないファイルを保有しており、そのファイルをエージェントに向けて真っ先に開いてみせたのです。プロンプト1行で画面を描くこと自体は誰もができるようになりましたが、その画面が自分たちのチームのコンポーネントやルールに従っているかどうかは、チームの記録を見て初めてわかります。その記録が、Figmaファイルの中にありました。

市場はまだ判断を保留している

ここまでを見ると「Figmaが勝った」と締めくくりたくなりますが、そう書いたところで半分しか当たっていません。プロダクトとエコシステムにおけるFigmaの立ち位置は強固になりましたが、株式市場は依然として疑いの目を向けています。株価は2026年に入って過去最安値となる16.80ドルまで下落し、10月初めにも21ドル台で取引されていました。公募価格の33ドルにも及ばない水準です。

理由の一つはコストです。Figmaのフリーキャッシュフロー・マージンは第1四半期の27%から第2四半期には14%へと縮小し、同社はAI推論コスト5の増加を、フリーキャッシュフローが前年と比べて変化した最大の要因に挙げました。ベータ版のプロダクトは顧客から利用料を受け取っておらず、推論コストを自社で抱え込んでいるとも説明しています。第3四半期の売上高見通しは成長率36%水準にとどまり、第2四半期の48%を下回っています。

Canvaが成長率見通しを引き下げた理由と、Figmaのマージンが縮小した理由は同じところを指し示しています。AI機能は、使えば使うほどコストがかさむ機能です。そのため、10月29日に両社が同日、独自の修正モデルを投入したことは偶然には見えません。デザイナーが最も頻繁に繰り返す修正を、より小型で安価なモデルで処理できなければ、利用量が増えるほど利益が削られる構造になってしまうからです。

Figmaの第3四半期決算は11月4日(米国時間)に発表される予定です。エージェントの利用量が増えた分だけクレジット売上が追いついたのか、独自モデルがコストをどれだけ削減できたのかが、そのとき初めて数字として明らかになるはずです。

Oswarldの視点

私は普段から、すべての人、すべての仕事に超知能が必要なわけではないと話しています。仕事や環境に合ったモデルがそれぞれ別にあるという意味です。実際、私自身も全体の計画を立ててタスクを分割する作業はClaudeやGPT-6に任せ、時間がかかり反復の多い作業はDeepSeekやGLMに渡しています。

Figmaのブログにある役割分担のくだりを読みながら、真っ先にこの考えが浮かびました。新たな探索は外部の最も優れたモデルに、日々繰り返される精密な修正は自らのファイルを理解している小さなモデルに任せるという構成は、私が作業ごとにモデルを選ぶのと同じ問題を、企業の生存条件として解いたものです。もしすべての修正をフロンティアモデルに任せていたら、Figmaは利用量が増えるほどさらに貧しくなっていたはずです。

「Figmaから真っ先に潰れる」という予測が外れたポイントも、ここに見えています。その予測はFigmaを「画面を描くツール」と見ていました。絵を描くスピードだけを見ればAIのほうが速いです。しかし、Figmaのファイルに長年蓄積されてきたのは絵よりもチームが合意した名前とルールであり、エージェントはそのルールなしにはチームがすぐに使える成果物を作ることができません。ただし、まだ証明されていないこともあります。そのポジションを守り抜くコストをFigmaが売上で賄いきれるかどうかは、今四半期から見守る必要があります。

おわりに

FigmaはAIを避けて生き残ったのではありません。エージェントが必ず経由しなければならないファイルを握り、そのファイルをエージェントが読み書きしやすいように開放し、最も頻繁に発生する修正は自前のモデルで安価に処理しようとしています。残された問いは、このポジションが果たして利益を生む場所なのかどうかです。


💬 AIが生成した画面やコードを受け取ったとき、真っ先に何と突き合わせて確認していますか? デザインシステムでしょうか、企画書でしょうか、それともシンプルに目視で確認していますか? ぜひコメントでお気軽に教えてください。

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参考資料と関連リンク


アン・グァンソプ(Oswarld)のイラスト

著者 アン・グァンソプ(Oswarld) は世宗大学校 兼任教授、INLEVEL9 戦略コンサルタントです。経歴、研究、著書、最近の活動は著者紹介で更新しています。 最近の活動 · 2026年7月:HEMA-2: A Consolidation-Aware Tri-Memory Architecture with Multi-Channel Scheduling for Lifelong Conversational AI。

📝 用語解説


각주

  1. MCP(Model Context Protocol):AIエージェントが外部ツールやデータと接続する方法を標準化したオープンプロトコルです。OpenAIのChatGPTアプリ向けSDKも、この規約の上に構築されています。 ↩

  2. 教師ありファインチューニング(SFT、Supervised Fine-Tuning):事前学習済みモデルに対し、「この入力にはこの出力」という模範事例を大量に提示して追加学習させる手法です。事後学習(post-training)の代表的な方式です。 ↩

  3. 強化学習(RL、Reinforcement Learning):正解をそのまま模倣させるのではなく、モデルが出力した結果をスコアリングし、より良い結果を出す方向へと自律的に調整させる学習手法です。 ↩

  4. 純売上継続率(NDR、Net Dollar Retention):既存顧客が1年前と比べてどれだけ支出を増やしたかを示す指標です。100%を超えていれば、既存顧客の支出が拡大していることを意味します。 ↩

  5. 推論コスト(Inference Cost):学習を終えたモデルがユーザーのリクエストを処理するたびに発生する計算コストです。機能を利用するユーザーが増えるほど、それに伴って増加します。 ↩