第107号

教皇の最初の回勅がAI時代の人間を扱う理由

レオ14世の初の回勅はAI時代の人間保護を扱う予定です。1891年に労働問題を扱った回勅との関連性、技術研究者が共に発表する意味を見てみました。

社会教皇の最初の回勅がAI時代の人間を扱う理由

1891年と2026年、同じ日付に署名された二つの回勅

1891年5月15日、教皇レオ13世は労働者の処遇と権利を扱った回勅1『新しい事態について(Rerum Novarum)』を発表しました。産業化によって生産が増える中で、労働者がどのような条件で働き、生活しているのかを扱った文書です。

135年後の2026年5月15日、レオ14世は初の回勅『Magnifica Humanitas』に署名しました。バチカンはこの文書がAI時代の人間保護を扱っており、全文は5月25日に公開すると発表しました。発表イベントには教皇と枢機卿、神学者たちに加えて、**Anthropicの共同創業者クリストファー・オラー(Christopher Olah)**も出席する予定です。

私はカトリック教会が労働問題を扱ってきた歴史と、今回のAI論議がどうつながるのか気になりました。また発表の場に技術研究者を共に招待した点にも関心が向きました。

1891年の回勅が扱った労働者の権利

19世紀の産業化過程では、長時間労働と児童労働、貧困が重要な社会問題でした。生産が増えた利益を誰が得るのか、労働者の健康と生活を誰が守るのかをめぐって論争が続きました。

『Rerum Novarum』は私有財産を認めながらも、労働者を単なる生産手段として扱う態度を批判しました。経済活動にも人間の尊厳と生活を守る義務があるという立場でした。

文書は労働者が生活できる賃金、休息、過度な労働からの保護、労働者団体の役割を扱いました。以後、カトリックの社会教理が発展する上で重要な基準となりました。

教皇の回勅がそのまま各国の法律になるわけではありません。ただし信者やカトリック機関が社会問題を判断する際に参考にする教えにはなり得ます。私はこうした文書の影響を、一度の発表よりもその後の議論と実践の中で見るべきだと考えています。

レオ14世がAIと労働を結びつけた理由

AIの発展も働き方と利益の分配に問いを投げかけます。

大規模言語モデル(LLM)2は文章作成や分析、コーディングなどの事務業務に活用されています。生産性を高める可能性とともに、職務の変化、責任の所在、少数企業への影響力集中を見ておく必要があります。産業革命とは技術的条件が異なりますが、変化の利益と負担を誰が受け取るのかは、つなげて考えられる問いです。

レオ14世の本名はロバート・プレボストです。1977年にヴィラノバ大学で数学の学士号を取得し、ペルーで長く司牧に従事しました。数学を学んだ経歴は興味深いものですが、それだけでAIに関する立場を説明することはできません。

彼自身が明かした理由は、カトリックの社会教理に近いものです。2025年5月、枢機卿団の前で教皇名について説明した際、レオ13世の労働問題への対応に言及しました。今日でもAIと新たな産業変化が人間の尊厳、正義、労働に課題を投げかけていると述べました。

バチカンの事前案内では、新しい回勅の署名日が『Rerum Novarum』発表135周年に当たると明記されていました。二つの文書の関連性を公式に強調したわけです。ただし新しい回勅がどのような具体的な基準を盛り込んでいるかは、5月25日の全文公開を待つ必要があります。

発表イベントには教理省長官のビクトル・マヌエル・フェルナンデス枢機卿と、総合的人間開発のための部署長官のマイケル・チェルニー枢機卿が出席します。ダラム大学のアナ・ロウランズ教授とサンタクララ大学のレオカディ・ルショムボ教授、クリストファー・オラーも発表者として案内されています。

ピエトロ・パロリン国務長官の締めくくりの発言の後には、教皇の演説と祝福が予定されています。教会指導者と神学者、技術研究者が共に名を連ねる構成である点が目を引きます。

技術研究者も同席する発表

オラーはAIの解釈可能性3を研究する人物です。AI内部でどのような計算が行われ、結果に何が影響を与えるのかを理解しようとする分野です。

彼はGoogle BrainとOpenAIで研究を行い、2021年にAnthropicの創業に参加しました。バチカンの発表案内にも共同創業者という肩書きとともに、解釈可能性研究を率いているという説明が添えられています。

こうした研究は、AIの判断をどこまで説明できるのか、人に影響を与える決定にどう責任を問うのかという問いにつながります。私はその点に、今回のイベントに技術研究者が参加する意味を見出しています。

バチカンは以前にも技術企業とAI倫理について議論してきました。**2020年には教皇庁生命アカデミーがMicrosoft、IBMなどと共に「ローマAI倫理宣言(Rome Call for AI Ethics)」4を発足させました。**透明性、包摂性、責任、公正性、信頼性、セキュリティとプライバシー保護を扱った六つの原則を提示しました。

Anthropicは最近、米国政府とAIの軍事利用の範囲をめぐって摩擦も経験しました。同社は米国人に対する大規模な国内監視と、完全自律型兵器の使用を制限すべきだと主張しました。2月27日の会社声明はその立場を説明しています。

その後、米国政府によるサプライチェーンリスク指定などをめぐる訴訟が進みました。企業がAIの利用にどこまで条件を課せるのかが争点の一つです。

ただしバチカンは、オラーの招待をこの紛争への支持表明だとは明言していません。共同創業者の出席だけをもって、教会と企業の立場があらゆる事案で一致していると解釈するのは難しいでしょう。公式に確認できるのは、彼が回勅発表に参加するという事実です。

Oswarldの視点

私は今回の発表を見ながら、GTM戦略を立てる際に悩んでいたことを思い出しました。

新しい製品や技術を紹介する際には、性能の説明だけで対話が終わることはありません。何を良い結果と見なすか、どのような使い方は受け入れがたいか、その判断基準も必要です。その基準を誰が示すかが、その後の議論に影響を与えることがあります。

バチカンもカトリックの社会教理を土台に、AIを判断する基準を示そうとしています。企業の製品仕様とは性格が異なりますが、技術を作った企業の外でも評価基準を議論するという点に意味があると思います。

回勅は国家のAI法規のように企業を直接規制する文書ではありません。また、ある回勅が出たという事実だけで社会の行動が変わるわけでもありません。教育機関や研究者、企業、信者たちがその内容をどう受け止め、適用するのかを見ていく必要があります。

企業戦略を練りながら学んだことの一つは、何を語るかとともに、誰が、どのような場で説明するのかも重要だという点です。今回は教皇と神学者たちのそばにAI研究者が並びます。私はこの構成が、異なる分野同士が問いを交わし合う助けになるのか、見守っていこうと思います。

おわりに

5月25日に全文が公開されたら、AIが労働と人間の判断に及ぼす影響をどのような根拠で説明しているのか、読んでみようと思います。

自律兵器や監視、労働者保護のように、すでに論争になっている問題に具体的な判断基準があるのかも気になります。出席者名簿よりも、文書が示す根拠と提案を直接確認することが重要でしょう。

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参考資料と関連リンク

主要出典

背景知識

著者 アン・グァンソプ(Oswarld) は世宗大学校 兼任教授、INLEVEL9 戦略コンサルタントです。経歴、研究、著書、最近の活動は著者紹介で更新しています。 最近の活動 · 2026年7月:HEMA-2: A Consolidation-Aware Tri-Memory Architecture with Multi-Channel Scheduling for Lifelong Conversational AI。

각주

  1. 回勅(Encyclical):教皇が信仰・道徳・社会問題などについて教えを伝える公式文書の一形式です。文書という形式だけで、すべての文言が誤りのない宣言や国家法と同等の効力を持つわけではありません。 ↩

  2. 大規模言語モデル(LLM、Large Language Model):ChatGPT、Claudeのような AIサービスの基盤技術です。膨大なテキストデータを学習し、人間のように文章を読み書きできるAIモデルを指します。 ↩

  3. 解釈可能性(Interpretability):AI内部の計算と挙動を、人が理解できる形で説明しようとする研究分野です。現在の方法ですべての判断過程を完全に説明できるわけではありません。 ↩

  4. ローマAI倫理宣言(Rome Call for AI Ethics):2020年に教皇庁生命アカデミーがMicrosoft、IBMなどと共に発足させたAI倫理宣言です。透明性、包摂性、責任、公正性、信頼性、セキュリティとプライバシー保護を六つの原則として提示しました。 ↩