第147号

売上高が85%急増したPalantirが「SaaSは死んだ」と語った理由

Palantirの「SaaSは死んだ」発言の背景と、シート課金制のサブスクリプションから成果報酬型課金へとシフトするソフトウェア価格モデルの変化を整理しました。

ビジネス売上高が85%急増したPalantirが「SaaSは死んだ」と語った理由

売上高が85%急増した企業が、なぜ「SaaSは死んだ」と語ったのか

Forbesに興味深い記事が掲載されました。Palantirの市場ストラテジストであるダニー・ラトカス(Danny Lutkus)氏がサプライチェーン向けソフトウェアについて語る中で、次のように述べたのです。

「SaaSは死んだ。」

強烈な宣伝文句のようにも聞こえる発言です。Palantirの2026年第1四半期の売上高は16億3,000万ドル(約2.2兆ウォン)で前年同期比85%増を記録し、米国商業部門は133%成長しました。ただし、ある1社の好業績がSaaS全体の終焉を証明するわけではありません。この発言がどのようなプロダクトと価格設定の変化を主張しているのか、詳しく見ていく必要があります。

**AIエージェントが一部の業務を直接処理するようになれば、購入者はユーザーアカウント数だけでなく、処理量や成果を課金基準として検討できるようになります。**こうした変化は、プロダクト設計や価格モデル、さらには求められる人員配置にも影響を与えます。

「AI時代、『タイムチャージ』の終焉……弁護士はこれから何を売るのか?」今後、弁護士の価値は「どれだけ長く働いたか」ではなく「どのような判断と責任を提供するのか」によって決まるようになる、という展望が示されました。lawtimes.co.kr

実際、最近私も韓国の『法律新聞』が主催したイベントの基調講演で同様の話をしました。かつてはアカウント単位(Seat)やライセンス単位で販売されていたソフトウェアが、今や解決件数や顧客が実際に得た効用を基準に課金する方向へとシフトしつつあるという話です。Palantirの発言も、同じ変化に注目したものだと読み解けます。もっとも、同社のすべての契約が成果報酬型の課金に切り替わったという意味ではありません。

🔥 Palantirは何を語ったのか

シート数(席数)で課金するSaaSは、人間がソフトウェアを使うことを前提としています。もちろん、SaaSのすべてがシート課金だけを用いているわけではありません。ユーザーがダッシュボードにアクセスし、データを整理し、レポートを作成します。企業はこの「アクセス権」に対して、ユーザー数(シート数)に応じたサブスクリプション料金を支払います。利用する人員が多いほど売上が伸びる構造です。

Palantirが語る未来は異なります。AIエージェントが業務を直接処理する比重が高まります。エージェントが判断を下し、ツールを呼び出し、データを移動させながら業務プロセスを最後まで完結させます。購入者はアクセス権だけでなく、処理された結果を基準に費用を比較できるようになります。

記事で紹介された顧客構成も参考になります。Palantirが最も多くの民間顧客を抱えている業種は製造業であり、ほぼすべての製造業クライアントがサプライチェーンにPalantirのソリューションを導入しています。サプライチェーン、コンプライアンス、防衛産業といった領域は、エージェントシステムが真っ先に明確な価値を示せる分野です。調達サイクルを短縮したり、例外事象を自動分類したり、人間同士のハンドオフ(引き継ぎ)を排除したりすることなど、顧客にとってはインターフェースが洗練されているかよりも、業務が完了したかどうかが重要だからです。

こうした期待は、従来のSaaSの収益構造に対する投資家の評価にも影響を与える可能性があります。

📉 2026年2月のソフトウェア株下落が示した懸念

Palantirの発言の3カ月前、市場では次のような事態が起きていました。

2026年2月第1週、SaaS関連銘柄の時価総額が合計で8,000億ドル(約1,100兆ウォン)以上消失したという集計が発表されました。S&P 500ソフトウェア指数がわずか5営業日で13%急落し、Salesforceは2週間で株価が29%も下落しました。一部では「サースポカリプス:SaaSpocalypse(SaaSの終焉)」と呼ぶ声さえ上がりました。

当時の報道は、相次いで発表されたAIエージェントツールを株価下落の引き金の一つとして挙げました。自律的に法的契約をレビューし、財務分析を実行し、ワークフローを管理するエージェントの実演が示されたのです。市場の恐怖は極めてシンプルでした。**AIによって同じ業務を処理するのに必要な人員が減れば、ユーザー数に応じて得ていた売上も減少しかねないという懸念です。**実際にどれほど人員が減少し、ソフトウェアへの支出が変化するかは、業務やプロダクトごとに見極める必要があります。

もちろん異論もあります。SaaStrのジェイソン・レムキン(Jason Lemkin)氏は**「これはAIがSaaSを殺したのではなく、2021年から始まっていた成長の鈍化を市場がようやく織り込んだにすぎない」と指摘しました。BofAのヴィヴェック・アーリヤ(Vivek Arya)アナリストチームも、この売り浴びせを「論理的に両立し得ない二つのシナリオを同時に価格へ織り込んだ非合理的な売り」だと分析**しました。Deloitteも「SaaSが死ぬのではなく、ハイブリッドへと進化しているのだ」という分析レポートを発表しています。

これらの反論は、株価下落の原因と速度をそれぞれ異なって解釈しています。誰もが同じ価格モデルへ移行すると合意したわけではありません。Bainは、2016年の株価下落が買いのタイミングの問題だったとすれば、2026年は既存ソフトウェアとAIの間で顧客が予算をどのように配分するかが重要になったと見ています。

フィナンシャル・タイムズは、Bainがソフトウェア企業の買収デューデリジェンスの過程で、AIコーディングツールを用いて類似機能を再現してみせていると報じました。核心は競合他社か否かを分類することではなく、買収対象のプロダクトをどれほど容易に再現できるかを確認し、競争優位性を評価することにあります。

💰 すでに変わりつつある価格モデル

価格モデルの変化を予測する見通しも示されています。

Deloitteが引用したGartnerの予測では、2030年までに企業のSaaS支出の最低40%が、使用量・エージェント・成果ベースの価格モデルへ移行すると見込まれています。RSMが紹介したBloombergの予測でも、サブスクリプションベースの価格設定の比率が長期的に低下する可能性が示唆されています。これらの予測は実際の契約現場で検証される必要があり、使用量課金とサブスクリプションを組み合わせた形態も十分に考えられます。

処理量や成果に対して課金する事例は、すでに登場しています。以下は当時公開されていた価格設定の例であり、商品構成や契約条件によって別途費用が発生する場合があります。

  • IntercomのAIエージェント「Fin」:顧客からの問い合わせを自動解決するごとに、1件あたり0.99ドルを課金。
  • Zendesk:AIが自動解決したチケット1件あたり1.50〜2.00ドル。
  • Salesforce Agentforce:対話ベース課金の例として、対話1件あたり2ドル。

「解決」と「対話」では課金の単位が異なるため、金額だけで単純比較することはできません。一部のベンダーは、AIエージェント1体に対して月額800〜2,000ドルを設定しています。比較対象となっているのは、月額20ドルのソフトウェアライセンスではなく、年収6万ドルの従業員なのです。一部のベンダーは人件費の削減額まで比較基準として提示しています。ただし、エージェント1体が従業員1人を完全に代替できるという意味ではありません。

🧭 スタートアップがいま問うべき問い

Palantirの主張を、スタートアップ創業者の視点で整理すると次のようになります。

**第1に、顧客が自社のプロダクトを使ってどのような業務を終わらせているのかを定義しなければなりません。**業務を管理する画面にも価値はありますが、競合がその仕事をより少ない手間で片付けてしまえないかを検証する必要があります。

**第2に、顧客が納得できる課金単位を定めなければなりません。**処理件数や成果に応じて対価を得るには、何を「成功」とカウントするのか、エラーや手戻りにはどう課金するのかを合意しておく必要があります。顧客のコントロールが及ばない結果を基準に設定してしまうと、紛争の原因になりかねません。

第3に、採用の変化です。機能のリリースやインターフェースの洗練に最適化されたチーム構成から、システム思考・ワークフロー設計・評価体系の構築へと重心が移ります。エージェントプロダクトは、従来のソフトウェアとは失敗のパターンが異なります。安定したツールの呼び出し、ガードレール1、メモリ、フィードバックループが不可欠です。これをデモの課題ではなく、エンジニアリングの課題として真正面から扱えるチームが、より迅速に前進できます。

**第4に、レガシーSaaSの隙間こそがチャンスであるという点です。**既存のSaaS大手は幅広いプロダクト群を擁していますが、同時に硬直化した価格構造とシート課金の売上に縛られています。特定の業界において手のかかる業務を一つ最後まで完結させてくれるエージェントスタートアップは、画面だけが美しく作られた汎用SaaSよりも、はるかに説得力のある提案ができるはずです。

Oswarldの視点

率直に申し上げると、私はPalantirの「SaaSは死んだ」という言葉そのものには同意していません。しかし、その言葉が指し示している方向性には強く共感しています。

技術戦略コンサルティングを手がける中で、何度も繰り返し目にしてきた潮流があります。新たなテクノロジーが既存のビジネスモデルを揺るがすとき、真っ先に変わるのは「価格をつける基準」です。クラウドがオンプレミスを代替した際も、ライセンスの一括買い切りからサブスクリプション方式へと最初に移行しました。現在、シート数基準から成果基準へと移り変わりつつあるのも、まったく同じ順序をたどっています。

私が考える本質は、顧客が何を基準にお金を支払っているのかという点です。ソフトウェアへのアクセス権に対価を支払っていた方式から、処理された結果に対価を支払う方式へと変化すれば、プロダクトの設計からカスタマーサクセスの定義に至るまで、すべてを連動させて刷新しなければなりません。技術だけでなく、ビジネスモデルも同時に見直さなければならない課題です。

Palantirの高い成長率は、同社のビジネスに対する強い需要が存在する証拠です。しかし、それだけであらゆるプロダクトが成果報酬型課金へ移行すべきだという結論には至りません。スタートアップは、自社のプロダクトが顧客のどのような業務負担を減らし、どのような結果を提供するのかを、まず具体的に説明できなければならないと考えています。

おわりに

  • 「SaaSは死んだ」という表現は誇張です。しかし、AIによって直接処理される業務が増加するにつれ、使用量や成果を課金の基準として検討するプロダクトは確実に増えています。
  • 成果に対して課金するためには、何を成果として認め、どう測定するのかを定義しなければなりません。これは価格モデルにとどまらず、プロダクト設計、採用、そしてカスタマーサクセスの定義そのものを変えていくことになります。
  • スタートアップにとって、この転換期は自らのポジションを築く好機でもあります。既存のSaaS企業がシート課金型の売上に縛られている間に、特定の業界へ特化し、成果報酬型のプライシングで切り込む余地が生まれています。

次にプロダクトロードマップを検討される際には、ぜひこの問いを投げかけてみてください。「自社のプロダクトは顧客のどんな仕事を減らし、その効果をどのように測定できるだろうか?」

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参考資料と関連リンク

主要出典

  • Palantir Technologies, “Q1 2026 Earnings Press Release,” SEC Filing, May 4, 2026.:Palantirの売上高16億3,300万ドル(1.633Bドル)、前年同期比85%増など、本号の重要な数値が網羅されています。
  • Forbes / Yahoo Finance, “Palantir Says SaaS Is Dead,” May 16, 2026.:ダニー・ラトカス氏の「SaaS is dead」発言の原文インタビューです。
  • Deloitte, “SaaS meets AI agents: Transforming budgets, customer experience, and workforce dynamics,” TMT Predictions 2026, Feb 2026.:Gartnerの予測(2030年に40%が成果ベースへ移行)やエージェント市場の規模を扱ったレポートです。SaaSの転換の全体像を把握するのに最適な資料です。

背景知識

筆者のアン・グァンソプ(安光涉)は世宗大学経営学科教授であり、INLEVEL9のリードコンサルタントを務める。大学で経営データ管理、ビジネスアナリティクスなど統計およびデータ分析を教える傍ら、実務の現場ではGTM戦略やAI戦略コンサルティングを主導し、テクノロジーとビジネスの接点を設計している。AI対話システムの記憶アーキテクチャ(HEMA)研究で学術論文を発表し、世界中のAI論文を毎日キュレーションするDaily Arxivプロジェクトを運営している。高麗大学技術経営専門大学院修士課程およびKMBAを修了。著書に『思考を委ねる人々:ホモ・ブレインレス』がある。

アン・グァンソプ(Oswarld)のイラスト

著者 アン・グァンソプ(Oswarld) は世宗大学校 兼任教授、INLEVEL9 戦略コンサルタントです。経歴、研究、著書、最近の活動は著者紹介で更新しています。 最近の活動 · 2026年7月:HEMA-2: A Consolidation-Aware Tri-Memory Architecture with Multi-Channel Scheduling for Lifelong Conversational AI。

각주

  1. ガードレール(Guardrails):AIエージェントが意図しない挙動を行わないよう設定する安全装置のことです。ツールのアクセス権限や禁止動作、人間の確認が必要な条件などを指定できます。 ↩