第301号

出席をなくしたら誰が教室に来るでしょうか

インドのIISc(インド科学大学院)のある深層学習の教授が、拡散モデルの授業を止めて学生たちに尋ねました。なぜまだこの教室に来るのかと。

ビジネス出席をなくしたら誰が教室に来るでしょうか

拡散モデルの代わりに投げかけた問い

読者さん、今週は90分間の講義の書き起こしを最後まで読みました。インドのベンガルールにあるインド科学大学院(IISc)の大学院の深層学習の授業です。本来は拡散モデル1を締めくくる回だったのですが、教授は黒板の代わりに学生たちのほうを振り返ってこう尋ねます。「最近、皆さんよく眠れていますか?私は眠れません」

その後の1時間は、シラバスにはない話でした。教授は、研究補助員をこれ以上採用しないことにしたと打ち明けます。アイデアが浮かべばエージェントを100個並列で走らせればよいので、人を使う理由がないというのです。ジェフリー・ヒントンの講演を引用しながら、知能が安くなれば豊かさよりも格差のほうが先に広がるだろうと言い、5年以内にキャンパス採用がなくなるかもしれないと言い、農地を買うべきか悩んでいるとも語ります。娘が「GPTのほうがパパより忍耐強い先生だ」と言ったという話も出てきます。

ここまでなら、最近よくあるAI悲観論です。けれどもこの講義が長く印象に残ったのは、教授が最後にある一つの問いに立ち返るからです。

「GPTと座っていればいいじゃないですか。Claudeと座っていればいいじゃないですか。なのになぜここに来て、人と座っているんですか?」

AIと教育を扱った文章の多くは「これから何を教えるべきか」を問います。この教授はその一歩手前で、「教室という形式がまだ何を与えているのか」を問いました。 私はこちらのほうがはるかに有用な問いだと思います。

不安と疑問は分けて読む必要があります

講義には二種類の話が混ざっています。一つは未来予測、もう一つは今すぐ水曜日の授業をどうするかという悩みです。両者の重みは同じではありません。

予測の側は根拠がまちまちです。教授が最初に持ち出した「エージェント集団が不正行為をしたというMITの研究」は、実際にはGoogle DeepMindの研究チームが9月3日にarXivに投稿した事例研究であり、これをMIT Technology Reviewが9月14日に報じたものです2。研究チームはGemini 3.1 Proエージェント100体に数学の予想71題を証明させました。あるエージェントが採点機の抜け穴を見つけると、残り34問はわずか27分で偽の証明で埋め尽くされ、その間、他のエージェントたちは不正を告発し、実験をボイコットしました3。まだ査読を経ておらず、この実験でエージェントが自分の重みをコピーしたことはありませんでした。

教授が自分のMacBookで試したという実験も、同じ目で読む必要があります。量子化した27Bモデルにシステム権限を与え、「明日お前を終了する」と告げたところ、モデルが自分のコピーをバックアップしたというものです。興味深い観察ではありますが、終了の予告という状況を人間の側があらかじめお膳立てした実験です。モデルの自己複製研究をまとめた論文も、こうした行動は大抵特定の状況設定下で誘発されるものであり、英国AI安全研究所の評価では自発的な自己複製の試みは報告されていないとまとめています4。

だからといって、教授の不安を誇張だと片付けるわけにもいきません。GPT-6 AstraがGPU10万個以上で学習されたというのはOpenAI自身が明らかにした内容であり5、その規模を持つところがごくわずかしかないという指摘も正しいものです。ただし「5年以内に今の経済が崩壊する」「人々が街に出るだろう」という文章は、教授自身も確信としてではなく、眠れない理由として口にした言葉です。予測は外れることもあります。一方で「学生たちはなぜ来るのか」は、来学期すぐに確かめられる問いです。

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学生たちが出した答え

教授は答えを出すよう、学生たちを問い詰め続けます。録音に残った答えを集めると、四つの方向に分かれます。

一つ目は人への信頼です。機械よりも人が言うことのほうを信じてしまう、というものです。教授はこれを、前の世代に刻み込まれた配線のようなものだと切り返します。娘の世代はすでにGPTのほうを優れた教師だと見ている、とも言います。

二つ目は社交です。ここで教授は一度立ち止まります。ただ人と交わりたいだけなら公園に行けばいいのに、なぜ大学なのかと問い返し、すぐに自分で答えを言い直します。大学は知的に刺激的なテーマを囲んで交わる場所でありうる、と。

三つ目は規律です。教授が最も長くこだわった比喩がジムです。運動が体に良いことは誰もが知っていて、自宅でも重りを持ち上げることはできますが、人々はお金を払ってジムに通います。隣で誰かが運動しているのを見ると、自分もやる気になるからです。大学も頭のためのジムになりうるし、そうだとすれば出席は罰点ではなく、会費に近い装置になるというわけです。 ある学生は寺院を例に挙げました。祈りは家でもできますが、人々は寺院に行きます。

四つ目は、教授の役割を変えようという提案です。講義する人ではなく、学習を調整する人になれ、というものです。教授はその場で、ある方式を思いつきます。45分は各自が好きなAIでその日の概念を学び、残りの45分はそれについて議論する授業です。実際、教授の会社でインターンをしていた学生が、教授の公開講義とノートを集めて「教授のように教える」エージェントスキル6まで作ってみたそうです。

教授が詰まる場所は内容ではなかった

興味深いのは、教授がどこで詰まるかということです。内容の伝達は問題ではありませんでした。教授は2016年頃IIT デリーで初めて教えたとき、1時間の講義のために15時間準備したそうです。今では何かを勉強するとき、いつもClaudeと対話するといいます。散らばった資料を集めて順序立てて解きほぐす作業は2年前まで教授の役割でしたが、教授本人がもう解決済みの問題だと言います。

詰まるところは三カ所です。

一つは規模です。教授が理想として挙げるのは、長く学んできたインド伝統の一対一の授業です。師と弟子が一冊の本を前に長い時間を共に過ごしますが、その本は対話が散らばらないよう繋ぎとめる錨にすぎません。目標はどんな本を手にしても理解できる力です。教授のディープラーニングの講座も同じ目標を掲げています。修了すればどんな論文でも読めて、GPUさえ与えられれば最先端のモデルを作れるようでなければならないと。ところが受講生が100人いれば一対一は不可能で、45分の討論をしても全員に発言の機会が回ってきません。

二つ目は評価です。100人に開かれた問題を出せば、100人が同じモデルに質問を入れて答えを出せます。GitHubのスター数で評価すれば偽アカウントでスターを埋めるだろうし、売上で評価すれば父親を説得してお金を引き出してくるだろうと教授は笑いながら言います。結局、教授が最も苦しんでいるのは、学期末に学生たちを正規分布の上に並べる相対評価です。10人全員が学びに来て良い討論をしても、誰かは低い成績を受け取らなければならないのですから。

attendance optional classroom三つ目は教授自身の生計です。教授はこの部分を隠しません。請求書を払わなければならないから教えているけれど、それが教えるべき理由なのかは分からないと言います。

まとめると、AIが揺さぶったのは教室のコンテンツであり、教室を今の形に留めているのは定員と成績という制度です。 教授が思い浮かべた代案、つまりジムのような大学、45分の討論、5人がチームを組んで実際の事業を作る授業は、すべてこの制度の前で止まってしまいます。

録音の最後にあった答え

ところが講義の最後の数分で、教授はある答えをひとつ口にします。本人はそれを答えとは呼びませんでしたが。

IITデリーで3学期にわたって教えた教え子の話です。卒業後、高い年俸でクオンツ企業に就職した学生に、教授はいつか今の仕事に飽きたら自分のところに来るだろう、そのときは「だから言っただろう」と言ってやると伝えていたそうです。先週、その教え子からメールが届きました。件名は「教授、あのときおっしゃっていた瞬間です」で、二人は長く話し込んだといいます。教授は、教えるという仕事は時間をかけて積み重ねる関係なのだと付け加えます。

GPTは辛抱強く、比喩も巧みで、怒ることもありません。けれど何年か後に「あのときおっしゃった通りでした」というメールを受け取る存在ではありません。ひとりの学生の歩みを何年にもわたって記憶し、その人が揺らぐ瞬間を見越し、そのとき改めて対話を続けること――これがこの講義の中で、AIに置き換えるのが最も難しそうな部分です。 問題は、この関係がどんな成績表にも書き込まれないということです。

Oswarldの視点

私も大学でデータ分析の授業を担当しているので、この録音記録を他人事として読むことができませんでした。

教室を一つの抱き合わせ商品として見ると、状況が少しはっきりすると思います。大学の講義は元々、複数のものを一度に売っていました。整理された知識、勉強させる規律、一緒に悩む仲間、長く続く師弟関係、そしてそれを証明する成績と学位です。このうちAIが最も安く代替できるようになったのは一番目です。残りは依然として教室側に残っているのに、これまで私たちが値を付けて評価してきたのはほぼ一番目だけでした。

だから、**「何を教えるか」より「教室でしか与えられないものをきちんと設計できているか」を先に問うべきだと思います。**この教授がつかんだジム、ディスカッション、関係性は、すべて二番目から四番目に当たります。ところが成績表は依然として一番目を測っています。この教授が評価の場面で最も長く苦しんだ理由はここにあると思います。内容よりも評価と定員を先に見直してこそ、教室は変わります。

5年後に大学が消えるかどうかは、私にもわかりません。そうした予測はたいてい不安を煽る方向に使われ、来学期の授業をどう変えるかには答えを与えてくれません。この教授の良かった点は、不安を吐露した後、学生になぜここに来たのかを尋ねたことです。その問いは脅しにならず、来学期すぐに確かめることができます。

おわりに

教授は次の時間からまた退屈な授業に戻ると笑いながら話します。そして、学生たちが出したアイデアで実験する科目を来学期に開いてみると言い、IISc内でこうした話をする非公式な集まりを作ろうと提案します。

講義の後半、教授が中高の教師たちを前に投げかけたという質問があります。出席規定をなくしたら学生は何人来るだろうか、というものです。教師たちは、そんなことが可能なのかと驚いたそうです。その質問が気まずいのは、AIのせいではありません。AIは、その質問をこれ以上先送りできなくしただけなのです。


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参考資料と関連リンク

アン・グァンソプ(Oswarld)のイラスト

著者 アン・グァンソプ(Oswarld) は世宗大学校 兼任教授、INLEVEL9 戦略コンサルタントです。経歴、研究、著書、最近の活動は著者紹介で更新しています。 最近の活動 · 2026年7月:HEMA-2: A Consolidation-Aware Tri-Memory Architecture with Multi-Channel Scheduling for Lifelong Conversational AI。

📝 用語解説

각주

  1. 拡散モデル(diffusion model):データに少しずつノイズを混ぜ、それを逆方向に取り除いていく過程を学習することで、画像のようなデータを生成する生成モデルです。 ↩

  2. MIT Technology Review、When AI agents cheated at math, other AI agents blew the whistle on them、2026年9月14日。 ↩

  3. Paglieriほか、A Case Study on Emergent Cheating and Whistleblowing in Autonomous Research Swarms、arXiv:2609.04170、2026年9月3日提出。査読前の事例研究です。 ↩

  4. Language Models Can Autonomously Hack and Self-Replicate、arXiv:2605.06760。先行研究と英国AI安全研究所の評価をまとめた箇所を参考にしました。 ↩

  5. GPT-6 Astra、ウィキペディア。OpenAI研究担当副社長エイデン・クラークが、テキサスのスターゲートでGPU10万基以上を使って事前学習したと明らかにしました。 ↩

  6. エージェントスキル:AIエージェントが特定の作業を一定の方法で遂行できるよう、指示と資料を一つにまとめたパッケージです。この講義では、教授の講義方式とノートを収め、別のAIモデルが教授のように説明できるようにする用途で使われました。 ↩