プレスリリースの成長率を確認する方法、AI検証サービスの限界
成長率を理解するには、基準となった数値と測定方法が必要です。AIで報道を検証するObjectionは、この問題をどこまで解決できるのでしょうか。
ビジネス「500%成長」したなら、いくらからいくらに増えたのか
企業のプレスリリースで「前年比500%成長」という文言を見ると、私はまず昨年の数値がいくらだったのかを調べます。基準となった数値と測定方法がわからなければ、成長の大きさを判断できないからです。 ところが、資料に成長率だけが記載され、この説明が欠けている場合があります。外部で確認できる資料まで不足していると、発表をそのまま信じてよいのか判断が難しくなります。
海外でも、投資家にユーザー数や売上を誤って伝えた事例がありました。米国のSECはソーシャルメディア・スタートアップのIRLがユーザーを集めた方法を偽っていたとして創業者を相手に訴訟を起こし、中国のLuckin Coffeeが3億ドル以上の架空売上を記録したと発表しました。ただし、こうした事件では最初に疑惑を提起した人物と、最終的に制裁を下した機関を区別して見る必要があります。
こうした検証の問題を考えているうちに、Objectionという会社を知りました。Peter Thiel やBalaji Srinivasan などが投資したこの会社は、記事やポッドキャストなど公開されたコンテンツの事実主張に異議を申し立てるサービスを打ち出しました。主張1件当たりの価格は2,000ドルです。調査結果に基づいて記者やメディアの信頼性を評価するHonor Index1も運営しているといいます。
企業が発表した数値も、こうしたツールで確認できるのではないかと思いました。ただし、Objectionが掲げる主な対象は企業のPR・IR資料ではなく報道です。私はここで価格と検証方式が気になりました。事実を確認しようとする人だけでなく、自分に不利な報道に圧力をかけようとする人も同じサービスを利用できるためです。
プレスリリースの数値で確認すべきこと
私がGTM戦略コンサルティングをする中でよく出会う問題があります。PR・IR資料に成果指標を載せる際、測定基準を記載しないことです。私はこうした方法で広報しないほうがよいと考えています。後で実際の財務資料やユーザー指標と比較した際に説明できなければ、会社の信頼を損なうからです。
資料を読むとき、特に次の3点を確認します。
- 成長率の基準数値: ユーザーが1人から2人に増えても100%成長です。増加率とともに、以前・現在の数値を見る必要があります。
- GMVの定義: 総取引額2に取消・返金・内部取引をどのように反映したかを確認する必要があります。会社ごとに集計基準が異なると、数字だけでは比較しづらくなります。
- ユーザー数の測定期間と流入方法: 広告や単発イベントでユーザーが増えたのであれば、その後も利用が続いているかを見る必要があります。累積登録者と月間アクティブユーザーも区別すべきです。
新サービスの発表や海外進出の発表があったからといって、これまでの成果を確認する必要がなくなるわけではありません。私は新しい発表を見るときも、以前に公開した数値と基準が同じかどうかを確認するようにしています。ただし、新情報の発表時点だけをもって、会社が監査結果を隠そうとしたと断定することはできません。
IRLの事例では、ユーザーが増えた方法が問題になりました。SECが2024年7月に提起した民事訴訟によれば、創業者はユーザーが約1,200万人で、その大半が自然に流入したと説明しながら、約1億7,000万ドルの投資を受けていました。しかしSECは、同社がダウンロードを誘導する広告や報酬に数百万ドルを費やし、その費用の一部を第三者を通じて隠したと主張しました。投資家はユーザー数だけでなく、その数を作り出したコストと方法も知る必要があったわけです。
Luckin Coffee事件でSECが指摘した架空売上は、2019年4月から2020年1月までで3億ドル以上でした。同社もSECの制裁発表に先立ち、2020年4月に売上操作を公表しました。こうした事例を見ると、検証手段がまったくなかったと言うよりも、投資や取引が行われる際に必要な情報をどれだけ早く確認できるかを問うべきです。
Objectionは報道をどのように検証するのか
Objectionの創業者Aron D’Souzaは、Hulk HoganとGawkerの間の訴訟を推進する過程に関与していた人物です。彼はメディアに対する信頼が低下したことを、このサービスの必要性として説明しています。
実際、Gallupの調査では、米国メディアに対する信頼は1970年代の68~72%水準から2025年には28%まで低下しました。この数値は、新聞・テレビ・ラジオがニュースを十分かつ正確、公正に報道していると、どの程度信頼しているかを尋ねた結果です。
とはいえ、信頼が低いという事実だけをもって、AIの判定のほうがより正確だとは言えません。サービスがどのような資料を受け取り、不確実な事案をどのように処理するのかは別途見極める必要があります。
TechCrunchの発表報道と創業者インタビューでの説明を整理すると、次のようになります。
- 資料提出とAI評価: 異議を申し立てた側と報道した側の資料に基づき、5社のLLM3が評価します。モデルごとに異なる人物設定を与えますが、これを実際の陪審員や独立した専門家による検証と同じものとみなすことはできません。
- 検証過程の公開: 同社は証拠と判定の根拠を公開すると説明しています。公開だけで正確性や再現性が保証されるわけではなく、保護すべき資料をどう扱うのかも見る必要があります。
- 証拠の等級: 規制当局への提出資料のような一次資料は高く評価し、別途確認を経ていない匿名証言などは低く評価します。
- 人による調査: 元捜査機関の関係者や調査報道記者などに、追加資料の収集を依頼するといいます。
付属機能であるFire Blanket4は、X APIを利用して当該主張が調査中であるという告知を掲示します。Xが自ら真偽を判定して付ける公式ラベルではありません。 まだ結論が出ていない報道に疑問を提起できるという点は、別途検討する必要があります。
企業が発表した売上やユーザー数に疑問があるとき、こうした調査を依頼する用途は考えられます。ただし、2,000ドルという依頼価格だけをもって、既存の調査より速く正確な結果が出ると判断することはできません。資料が不足していれば、結論を出せない場合もあります。
私がより懸念しているのは、取材源の保護です。
取材源を保護しながら検証を受けられるのか

発表報道によれば、Objectionは独立して確認されていない匿名取材源5の証言を低く評価します。匿名取材源を使ったという理由だけで、すべての報道が自動的に最低評価を受けるという説明は正確ではありません。ただし、記者が取材源を保護しなければならない状況で、第三者からの確認要求にどこまで応じられるのかは難しい問題です。
D’Souzaは、暗号化ハッシュを利用した取材源確認方式を説明しました。しかし記者の立場からは、どの情報を誰が見ることになるのか、どのくらい保管されるのか、取材源が再び特定される危険はないのかを確認する必要があります。サービスへの参加が法的義務ではないとしても、応じない状態で低い評価や調査中という告知が公開されれば、対応への圧力を感じることがあります。
ミネソタ大学のメディア法教授Jane Kirtleyと、報道関連訴訟を手がける弁護士Chris Matteiも、TechCrunchのインタビューで、権力者が批判報道に圧力をかける手段としてこのサービスが使われる可能性を懸念しました。これはサービスが実際に悪用されたという調査結果ではなく、設計に対する批判です。憲法修正第1条6による法的保護とは別に、記者が外部評価への対応に費やす負担は残り得ます。
Theranos事件を取材したJohn Carreyrouによる2015年のウォール・ストリート・ジャーナルの報道でも、内部告発者の保護が重要でした。報道は内部証言と資料確認を通じて同社の主張に疑問を提起し、同社は報道と取材源を法的に圧迫しました。もし当時、同社が記事内の複数の主張それぞれに異議を申し立てるサービスを利用していたら、記者の対応負担はさらに大きくなっていたかもしれません。ただし、これは仮定です。実際にどのような評価が出ていたかはわかりません。
一つの記事に含まれる複数の主張それぞれに異議を申し立てられるのであれば、事実確認を求める用途にも使われますし、取材陣の対応業務を増やす用途にも使われ得ます。サービスがこうした反復的な依頼をどのように管理するかが重要です。
2,000ドルを支払う顧客は誰なのか
GTMの観点7から見ると、私はまず1件2,000ドルという価格に注目します。一般読者が気になる記事ごとに支払うには重い金額ですが、法務・広報予算がある企業であれば、必要に応じて複数件を依頼できます。
創業者は、費用を負担しにくい人を助けるという意向も示しました。ただし、個人的な支援の約束と、誰でも条件を確認して申請できる支援制度とは異なります。実際のアクセスしやすさを評価するには、費用免除の基準と手続きが必要です。
D’Souzaがインタビューで想定した利用者は、自分がメディアに誤って描写されたと考える人々です。こうした人々に訂正や反論の手段を提供すること自体は必要です。同時に、依頼した人が費用を負担する構造が、調査と公開の方式にどのような影響を与えるのかも見る必要があります。
私が懸念しているのは、依頼人の主張と最終判定の区別が読者に十分に伝わるかという点です。 特に、判定前に公開される調査告知は、誰かが費用を払って異議を申し立てたという事実を示すだけで、報道が誤っていたという証拠ではありません。同社が掲げるメディアの責任と同じくらい、このサービスを運営する側の責任も具体的であるべきです。
Oswarldの視点
企業が発表した数字を、適切な時期に確認しづらいという問題は、私がGTMコンサルティングの現場でも経験してきたことです。 測定基準が欠けた成長率や、定義が曖昧なKPIが投資や取引判断の根拠として使われると、後になって互いに異なる数字を見ていたという事実に気づくことがあります。この確認過程を助けるツールは必要だと考えています。
しかし、Objectionがその問題をどれだけうまく解決するのかは、まだ判断が難しいです。依頼価格が定められていることと、検証のコスト・時間・正確性が改善されたことは別の話です。批判報道を封じようとする依頼が増える危険もありますが、実際にどちらの用途が多くなるのかは、運営の結果を見なければわかりません。
私がこの市場でサービスを作るなら、まず開示・財務・ユーザー指標・売上認識のように、測定基準と資料を対照できる主張に範囲を絞ります。匿名取材源に依拠する調査報道は、初期の対象から外します。依頼人の費用負担と、異議を申し立てられる側の対応負担も併せて設計します。こうして範囲を定めても、すべての悪用を防げるわけではありませんが、何を確認できるのかをまず明確にできると考えています。
おわりに
プレスリリースを読むとき、私が確認しようとするのは3点です。
- 成長率を計算する際に基準とした数値はいくらか。
- ユーザー数や取引額はどのような方法で集計したのか。
- 昨年の同四半期と今回の発表の定義は同じか。
検証サービスについても同じ原則で見る必要があります。点数だけを見るのではなく、どの資料を確認し、何を確認できなかったのかを知る必要があります。
私は、取材源を保護しながらも根拠を確認できる方法、反復的な依頼を制限する基準、誤った判定に異議を申し立てる手続きまで公開されて初めて、このサービスを評価できると考えています。
AIが下した点数であっても、その数字を信じるための根拠は別途必要だからです。
参考資料と関連リンク
主要出典
- Rebecca Bellan、「Can AI judge journalism? A Thiel-backed startup says yes, even if it risks chilling whistleblowers」、TechCrunch、2026.04.15:Objectionの発表内容と、創業者・批判者たちの説明を取り上げた記事です。
- Rebecca Bellan、「Full transcript: Conversation with Aron D’Souza on Objection and AI in journalism」、TechCrunch、2026.04.15:創業者が説明したサービスの運営方式と、記者の質問を確認できるインタビューの全文です。
背景知識
- U.S. Securities and Exchange Commission、「SEC Charges Founder of IRL Social Media App With Defrauding Investors of $170 Million」、2024.07.31:IRLのユーザー獲得方法と投資家への説明に関するSECの民事訴訟発表です。
- John Carreyrou、Bad Blood: Secrets and Lies in a Silicon Valley Startup、Knopf、2018:Theranos暴露の全過程を記した本です。取材源の保護と、同社の法的圧力への対応過程を取り上げています。(個人的にはドラマもおすすめです。)
- U.S. Securities and Exchange Commission、Luckin Coffeeの売上操作に関する発表、2020.12.16:SECが指摘した売上操作の期間と金額を確認できます。
- Gallup、「Trust in Media at New Low of 28% in U.S.」、2025.10.02:2025年9月の調査結果と、1970年代からのメディア信頼度の推移を示しています。

筆者アン・グァンソプ(安光涉)は世宗大学校経営学科教授であり、INLEVEL9のリードコンサルタントである。大学では経営データ管理、ビジネスアナリティクスなど統計およびデータ分析を教える一方、現場ではGTM戦略とAI戦略コンサルティングを主導し、技術とビジネスの接点を設計している。AI対話システムの記憶アーキテクチャ(HEMA)研究で学術論文を発表し、毎日グローバルなAI論文をキュレーションするDaily Arxivプロジェクトを運営している。高麗大学校技術経営専門大学院修士課程とKMBAを卒業した。著書に『思考を委ねる人々:ホモ・ブレインレス』がある。
각주
-
Honor Indexは、Objectionが記者・メディアの正確性や報道歴などを評価するために掲げた独自のスコアです。公認された報道評価基準ではありません。 ↩
-
GMV(Gross Merchandise Volume)は、一定期間の総取引額を意味します。プラットフォームが実際に得る売上とは異なり、取消・返品などの処理基準については各社の説明を確認する必要があります。 ↩
-
LLM(Large Language Model)は大規模言語モデルです。ObjectionはOpenAI・Anthropic・xAI・Mistral・Googleのモデルを使用すると説明しています。異なるモデルを使うからといって、誤りが自動的に相殺されるわけではありません。 ↩
-
Fire Blanketは、ObjectionがX上で調査中の主張に関する告知を掲示する機能です。Xの公式判定やCommunity Notesとは区別する必要があります。 ↩
-
匿名取材源とは、報道において身元を明らかにしない情報提供者です。読者に身元を公開しないことと、記者や編集者が身元・証言を確認していないことは異なります。 ↩
-
憲法修正第1条は、米国政府が報道・出版などの自由を侵害できないよう保護します。名誉毀損訴訟の基準は事件によって異なります。New York Times v. Sullivan判決は、公職者の公務遂行に関する報道について、虚偽であることを知っていたか、真実性を無謀に無視したことを立証するよう求めました。 ↩
-
GTM(Go-To-Market)は、製品・サービスを誰にどのような価格・経路で販売するかを定める戦略です。本稿では、サービスの価格と利用手続きがどのような顧客に合わせて設計されているかを検討する意味で使いました。 ↩

あなたの視点が次の号をつくります
この号で最も共感した点、あるいは違う経験をした点はどこですか。