第181号

ハイパースケーラーの8,000億ドルと世界AI投資総額の乖離

ゴールドマン・サックスの試算では、2026年の世界AI投資は1兆190億ドル、米国内は5,810億ドルに上ります。

ビジネスハイパースケーラーの8,000億ドルと世界AI投資総額の乖離

ビッグテックの決算シーズンごとに引用される「8,000億ドル」

先週、ビッグテックの決算シーズンが一巡しました。Alphabetは今年の設備投資見通しを1,950億〜2,050億ドルへと引き上げ、Amazonは2,200億ドルを提示し、Metaは見通しの下限を引き上げました。そして、こうした発表があるたびに記事に必ず登場する集計値があります。「ハイパースケーラー1大手5社、今年は8,000億ドル」。現在、AI投資をめぐる議論のほぼすべてが、この数字を前提に繰り広げられています。

ところが去る2日、ゴールドマン・サックスがこの数字を再計算したリサーチノートを発表しました。8,000億ドルという数字は、世界全体のAI投資を約2,000億ドル過小評価していると同時に、米国内の投資を約2,000億ドル過大評価しているという内容です。米国企業5社の設備投資と、世界全体のAI投資、そして米国内で執行されるAI投資は、それぞれまったく別の集計値なのです。


誰もが同じ数字を引用する理由

まずは8,000億ドルの正体から整理しましょう。正確には7,940億ドルで、Google、Amazon、Microsoft、Meta、Oracleという、米国の上場ハイパースケーラー5社における2026年の設備投資コンセンサス予想です(FactSet集計ベース)。その推移をたどると、なぜ誰もがこの数字に目を奪われるのかがよく分かります。2019年に710億ドルだった5社の合算投資額は、2023年に1,540億ドル、2025年に4,120億ドルを経て、今年は7,940億ドルの見通しにまで達しました。わずか3年で5倍に膨らんだ計算です。

この数字が標準的な指標になった理由は単純です。数えやすいからです。5社だけを追えばよく、四半期ごとの決算発表で検証でき、アナリストの予想値もきめ細かく揃っています。実際、去る3日にTrendForceが発表した集計と重ね合わせてみても、この数字自体の信頼性はかなり高いと言えます。TrendForceは世界のクラウド事業者大手9社の今年の設備投資を8,867億ドル(前年比約90%増の予測)と見積もり、北米大手5社の比率を約90%と分析していますが、これを計算すると約7,980億ドルになります。ゴールドマンのコンセンサスである7,940億ドルと事実上同じ数字です。同じ5社を集計すれば、誰が計算しても同じ値に行き着きます。

問題はその先です。この数字がいつの間にか、「世界全体のAI投資総額」と「米国のAI投資」という、まったく異なる二つの問いに対する答えとして使われ始めました。しかし、実際はそのどちらでもありません。


米国基準では過大、世界基準では過小な数字

ゴールドマンの分析を項目別に見てみましょう。まずは過大評価の側面、つまりこの数字を「米国のAI投資」として読む際に生じる誤りです。

第一に、この8,000億ドルの中にはAIとは無関係な投資が混ざっています。AIブームが本格化する前の2022年でも、5社の設備投資はすでに1,580億ドルありました。これらはクラウドサーバーや物流センターにもともと投じられていた資金です。AIがもたらした「増加分」を把握するには、まずこのベースラインを差し引く必要があります。第二に、この資金のすべてが米国内で執行されているわけでもありません。発表されたプロジェクトの拠点を追跡すると、米国のハイパースケーラーによる設備投資のうち米国内で執行されるのは約70%にとどまり、アジアが15%、欧州が9%と続いています。

次は過小評価の側面、すなわち「世界全体のAI投資」として読んだ場合の誤りです。ゴールドマンのクレジットチームの分析によると、2026年のAI関連供給においてハイパースケーラーが直接占める比率は40%程度です。残りの60%に相当する資金は、この集計の外にあることを意味します。OpenAIのような非上場企業の投資が約1,020億ドル(ゴールドマン推計)、CoreWeave(約340億ドル)やSpaceX(約310億ドル)といったハイパースケーラー以外の上場企業、そしてサムスン電子(約520億ドル)、SKハイニックス(約320億ドル)、テンセント、アリババといった米国外の企業がすべて抜け落ちています。メモリー工場の増設までをAI投資として数えるのかという定義上の問題も浮上しますが、ゴールドマンはこれも含めて計算しています。

これらをすべて補正した結果がこちらです。2026年の世界AI投資は約1兆190億ドル、そのうち米国内の投資は5,810億ドル。 広く引用されている7,940億ドルは、世界基準で見れば約2,000億ドル少なく、米国基準で見れば約2,000億ドル多いことになります。ちなみに、この2,000億ドルという金額は、韓国の7月単月の輸出総額(989億ドル)の約2倍に相当する規模です。

もちろん、補正値も一つの推計にすぎません。そのためゴールドマンは、まったく異なる二つの方法で検算を行っています。一つは、AIのエクスポージャーを持つ上場企業の2026年売上総利益予想が、2022年第3四半期と比べてどれほど上方修正されたかをもとに逆算する手法で、ここから1兆600億ドルという数字が導き出されます。売上高ではなく売上総利益を用いるのには理由があります。メモリーやファウンドリに支払ったコストがチップ設計企業の売上高にも二重に計上されるため、売上高ベースで合算すると同じ資金を2回数えてしまうことになるからです。もう一つは、米国の国民経済計算における商品流通統計を追跡し、どのような設備が国内にどれだけ供給されたかをたどる手法で、こちらでは世界全体で1兆20億ドルという試算になります。三つの手法はいずれも「世界全体で1兆ドル近辺、米国内は6,000億ドルをやや下回る水準」へと収束します。異なるアプローチから近い数値が導き出されていることから、補正値の桁数としては比較的信頼できると言えます。


集計基準を変えれば規模の判断も変わる

この補正が単なる会計上の帳尻合わせにとどまらない理由は、AIバブル論争の双方がこの数字を根拠にしているからです。楽観論は「8,000億ドルも投じられているが需要が支えている」と主張し、悲観論は「8,000億ドルも使っているのに回収の道筋が見えない」と主張します。同じ数字をもとに、正反対の結論を下していたわけです。

補正値を用いると、投資規模に対する判断そのものが変わってきます。ゴールドマンが補正値をGDPと比較したところ、米国のAI投資は2026年にGDPの1.8%を占め、上場企業のコンセンサスを外挿すると2027年には2.5%、2028年には2.8%にまで達します。大きく見えますが、鉄道や電気といった過去の汎用技術2が普及した際の投資ピークがGDPの2〜5%の範囲であったことと照らし合わせると、規模そのものは歴史的な先例と比べても異例とは言えない、というのがゴールドマンの判断です。「使いすぎている」という直感的な懸念は、少なくともGDPという分母の上では、まだ根拠に乏しいと言えます。

むしろ別の部分で警告シグナルが点灯しています。米国の公式統計基準で見ると、今年に入ってからの名目投資増加分のうち8%は、実質投資の増加ではなく価格の上昇分によるものです。メモリーをはじめとする部品価格が高騰したことで、同じ1ドルで調達できるコンピューティング性能が低下し始めているのです。支出規模が大きいこと以上に、同じ支出で確保できる実際の設備量が目減りしている点こそ、先行する警告シグナルになり得ます。

また、このリサーチノートには前号で取り上げた疑問への答えも含まれています。新FRB議長はなぜスタートアップのように語るのかで触れた、「1兆ドルも投じられているのに、なぜ経済指標に表れないのか」という謎です。ゴールドマンの説明は会計的な観点に基づいています。米国の国民経済計算では企業の半導体購入を投資財として集計せず、またAIハードウェアは輸入比率が高いためGDP計算の過程で相殺されてしまいます。そのため、1兆ドル規模の支出が経済成長率の統計にはそのまま反映されないのです。投資が存在しないのではなく、集計の仕組みによって表面化していないにすぎません。


サイクルの変化は台湾・韓国の貿易統計にいち早く現れる

残る問いは、この1兆ドル規模のサイクルがいつピークアウトするのか、そしてその変化をどこで最も早く確認できるのかという点です。

ゴールドマンは判断ツールとしてダッシュボードを活用していますが、そこに並ぶ先行指標は、台湾と韓国の半導体製造装置の輸入額、電子業界の受注および受注残高、輸出価格、メモリー価格、Nvidia製GPUの時間あたりレンタル料金などです。指標の大部分は米国のデータではなく、東アジアの貿易データで占められています。理由は明快です。データセンターが建設される前に、半導体と製造装置が先に国境を越えて移動し、台湾や韓国の貿易統計は米国の公式統計よりも1〜2カ月早く発表されるからです。

rulerこれらの指標の中で最も新しい数値が、去る土曜日(8月1日)に発表されました。韓国産業通商資源部の7月の輸出入動向です。半導体輸出は410億ドルと前年同期比178.8%増を記録し、2カ月連続で400億ドルを突破、輸出全体の41.5%を占めました。対米輸出もAIデータセンター需要の恩恵を受けて68.7%増加し、半導体製造装置の輸入も同時に増加しました。ゴールドマンのダッシュボードにおいて、これらの指標は2022年以降の変動幅の中でも高水準に位置しています。

ただし、同じデータからゴールドマンのナウキャスト3は、別のシグナルも読み取っています。6〜7月のAI関連投資は非常に堅調なペースを維持しているものの、やや減速傾向にあるというシグナルです。増加率が高いことと、増加のペースが鈍化することは別の話であり、特に現在の輸出額にはDRAMの固定価格上昇という価格効果が色濃く反映されています。先ほど触れた「名目増加分の8%は価格」という警告と同じ構造が、韓国の輸出統計の中でも生じているわけです。もちろん、これは方向性を示すシグナルであって確定値ではありません。確定値は1〜2カ月後に米国の統計として公表されますが、それに先立つシグナルは毎月1日に発表される韓国の輸出入統計からいち早く読み取ることができます。

この構図が韓国の読者にとって持つ意味も明白です。世界が1兆ドル規模のサイクルの現状を確かめるためのデータが、韓国の税関を通過する輸出入実績だということです。世界の家計資産増加分の20%を生み出した実物投資と米韓AI協力で、韓国はメモリーという実物経済のボトルネックを握っていると書きましたが、今回のノートはそこに新たな事実を付け加えています。韓国はメモリーの供給拠点であるだけでなく、このサイクルの変化を最も早く映し出す統計データをも持っているのです。


Oswarldの視点

GTM戦略のコンサルティングを手がけていると、新規事業の市場規模を推計する機会が数多くあります。その際、決まって繰り返される光景があります。クライアントがリサーチ会社3社のレポートを並べて持参するのですが、同じ市場を対象にしているにもかかわらず、数字が2〜3倍も異なっているのです。計算が間違っているわけではありません。何を含め、何を除外したのかという定義が異なっているのです。そのため私は、数字を見る前にまず脚注を読む習慣がつきました。何を含めて何を外すかを決める側が、結果として結論まで左右することになるからです。

その経験から見ると、8,000億ドルという数字の問題は計算ミスにあるのではなく、あまりにも算出しやすかった点にあります。主要5社の開示情報を合算するだけで導き出せるため、誰もがこの数字を引用するようになり、本来一緒に集計すべき非上場企業や米国外企業の投資が議論から置き去りにされてしまいました。 今回の試算補正によって、バブル論争の結論がすぐに覆るわけではないでしょう。しかし、議論の視野を広げる必要はあります。5社の業績ばかりに目を奪われるのではなく、メモリー工場や電力網、非上場のAI研究所まで含めたサプライチェーン全体をあわせて捉えなければなりません。集計の対象を産業全体へと広げれば、韓国も単なる傍観者ではなく、集計される当事者となります。サムスン電子やSKハイニックスの投資が、世界のAI設備投資集計に直接組み込まれるからです。

一つだけ補足させてください。本稿は特定の資産や銘柄に対する投資判断の根拠となるものではありません。あくまで数字の定義を吟味することを目的とした文章ですので、実際の投資判断に際しては、一次資料や開示情報を必ずご自身でご確認いただきますようお願いいたします。


おわりに

第一に、ハイパースケーラーの8,000億ドルをAI投資総額とみなしてしまうと、ゴールドマンの補正値と比べて世界全体は約2,000億ドル少なく、米国内投資は約2,000億ドル多く見積もることになります。補正値は、世界全体で1兆190億ドル、米国内で5,810億ドルです。

第二に、集計基準を変えれば判断も変わります。GDP比での規模は過去の汎用技術の普及期と同等の水準にとどまっているものの、今年の名目投資増加分のうち8%が実質投資ではなく価格の上昇分である点は、新たな警告シグナルと言えます。

第三に、転換点をいち早く捉えるデータは台湾と韓国の貿易統計です。毎月1日に発表される輸出入動向の半導体・製造装置の項目がこのサイクルの変化を最も早く示しますので、ぜひ次の1日にご自身の目で確かめてみてください。

読者さんの業界にも、こうした数字はあるでしょうか。誰もが引用しているものの、出典や定義を精査してみるとどこか不自然な「標準的な数字」です。心当たりのある数字や、その違和感について、ぜひコメント欄で教えてください。


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著者 アン・グァンソプ(Oswarld) は世宗大学校 兼任教授、INLEVEL9 戦略コンサルタントです。経歴、研究、著書、最近の活動は著者紹介で更新しています。 最近の活動 · 2026年7月:HEMA-2: A Consolidation-Aware Tri-Memory Architecture with Multi-Channel Scheduling for Lifelong Conversational AI。

📝 用語解説

각주

  1. ハイパースケーラー(hyperscaler):Google、Amazon、Microsoftのように、超大型のデータセンターを自社で建設・運用するクラウド事業者を指します。事業規模が極めて大きいため、各社の設備投資額がAIインフラ市場全体の代理指標として扱われます。 ↩

  2. 汎用技術(GPT, General Purpose Technology):電気や鉄道のように、一つの産業にとどまらず経済全体の生産方式を根本から変革する技術を指します。普及期には数十年規模の大規模なインフラ投資が続くという共通点があります。 ↩

  3. ナウキャスト(nowcast):公式統計の発表を待つ前に、より速報性の高い代替データを用いて足元の状況をリアルタイムで推計する手法です。先々の「予報」というよりも、「現在の天気の生中継」に近い概念です。 ↩