SaaS株価下落から見る成長と課金の問題
AI競争以前から鈍化していたSaaSの成長。Gammaで経験したGTMと、アカウント単位課金の限界、顧客が支払いを続ける理由を見ていきます。
AI・テックSaaS株価下落を見てまず思ったこと
ソフトウェア企業の株価が大きく下落しています。SaaSとは、ソフトウェアをインストールして所有する代わりに、インターネット経由で利用しサブスクリプション料金を支払う事業方式です。最近では、AIがこうした製品の機能を代替できるのではないかという懸念が高まっています。
Bainは2026年2月9日の分析で、主要ソフトウェア指数がここ数週間で約15%、過去12ヶ月の高値からは約25%下落したと説明しています。顧客の既存契約が一斉に消えたというよりは、今後の成長に対する投資家の期待が変化した状況だと見ています。Bainの分析
私はこの下落を見て、「ついに来たか」という思いがまず浮かびました。GTM戦略を策定する中で、ユーザー数の増加に依存する課金モデルの限界を見てきたからです。AIへの恐怖が高まる以前から、成長鈍化を併せて検討すべきだと考えていました。

2026年1月29日時点のソフトウェア銘柄比較。制作:Lin(@speculator_io)。年初来収益率、1年収益率、52週高値からの下落率はそれぞれ異なる基準です。
価格引き上げによる売上増加と新規顧客の増加
SaaStrのジェイソン・レムキンも最近の下落を分析し、2021年以降続いてきたSaaS成長鈍化と企業予算の移動を強調しています。既存契約の価格を引き上げたり既存顧客により多く販売したりすることで売上を増やすことと、新規顧客を継続的に獲得することは分けて見るべきだという主張です。レムキンの記事
価格引き上げによって増えた売上も売上には違いありません。ただし、そうした成長をどれだけ長く続けられるかは別の問題です。投資家が今後の成長率を低く見積もれば、同じ売上を出す企業に対しても、より低い価値を付ける可能性があります。
Bainは、中核機能の普及が広がるにつれて既存顧客の追加購入が鈍化し、ユーザーアカウント数がかつてほど成長に寄与しなくなっていると説明しています。このとき見る指標が純収益維持率(NRR)です。既存顧客群の売上が一定期間後にどれだけ残った、あるいは増えたかを示す指標で、追加購入だけでなく価格引き上げや契約縮小、解約も反映します。100%を超えたからといって、必ずしも利用者数や利用量が増えたことを意味するわけではありません。
ここにAI導入予算の増加が加わることで、新規ソフトウェアや追加アカウントの購入が先送りされる可能性があります。製品が依然として必要であっても、顧客が支出の優先順位を変えれば、供給業者の成長には負担が生じるわけです。

似た機能を作る競争から抜け出せるか
私は今のAIアプリ市場を見ると、スマートフォンアプリが急速に増えていた時期を思い出します。バス路線アプリも数多くありましたし、韓国国内のメッセンジャーだけでもカカオトーク・マイピープル・NateOnなど複数の選択肢がありました。時間が経つにつれて一部のサービスは姿を消し、利用者が特定のサービスに集中しました。
AIアプリでも似たような機能を掲げた製品が数多く登場しています。すべての分野が一つの製品に集約されるわけではないでしょうが、汎用AIが提供する機能だけでは差別化が難しくなっていく可能性があると考えています。
プレゼンテーション生成が一つの事例です。Anthropicは2026年2月24日、ClaudeがExcelとPowerPointの追加機能を連携させ、分析結果を発表資料に移す機能をリサーチプレビューとして公開しました。ユーザーはすでに使っているオフィス環境の中でもAIの支援を受けられるようになるわけです。Anthropicの発表
私はGammaでGTMを担当しながら、セキュリティ要件の厳しい顧客を対象とした戦略を扱いました。この顧客層では、資料生成機能だけでなく、データをどこに置きどのように運用するかが重要でした。私が経験した戦略では、顧客自身のサーバーで運用するオンプレミス方式とセキュリティ特化が重要な方向性でした。
汎用AIと同じ機能で競争する場合、どの顧客のニーズをより良く解決できるかを見つける必要があるという話です。私が扱った顧客層では、セキュリティと運用環境がその差別化要因になり得ました。
「ClaudeやGeminiがこの機能を提供しても、顧客が自社の製品を使い続ける理由があるか」。私はSaaSチームがこの問いに具体的に答えられなければならないと考えます。機能一覧だけでなく、顧客のセキュリティ要件や既存の業務方式もその答えに含まれるべきです。
AIが普段使っているツールの中で業務を処理する
AIの役割は、要約や下書き作成から実際のツールを使う方向へと広がっています。メール内容を提案するだけにとどまらず、連携先のサービスで文書を修正したり契約手続きを進めたりする支援ができるようになっているのです。
この変化が既存ソフトウェアとの連携を通じて現れている点にも注目する必要があります。Anthropicの2月24日の発表には、Google Workspace・Docusignなどとの連携機能と企業向けプラグインが含まれていました。Docusignも自社の契約管理機能をCoworkで利用できるよう連携させたと発表しています。AIが業務を処理する過程で既存ソフトウェアが引き続き使われる事例です。Docusignの発表
Googleは2025年1月から、WorkspaceのBusiness・Enterpriseプランに Gemini機能を含め始めました。Gmailのメール要約と下書き作成、Docsの文書作業、Meetの会議記録といった機能です。すべての業務が自動で処理されるという意味よりも、普段使っている製品の中にAI機能が組み込まれるという点が重要です。Googleの発表
私はこうした使い方こそ意味のあるAI適用だと考えています。別途AIアプリを学びに行く代わりに、もともと行っていた仕事をしながら支援を受けるというものです。新しいSaaSを販売するチームであれば、既存製品の中で提供されるAI機能より何が優れているのかを説明しなければなりません。
Oswarldの視点
GTMに携わってきた経験から、私はユーザーアカウント数が売上増加を今後も牽引し続けるという前提を慎重に見ています。ある顧客企業の利用者が増え、新規顧客企業も増えている間は、アカウント単位の課金が成長に有利に働きます。しかし導入が十分に進み、顧客企業の人員が増えなくなると、同じ方式では成長しにくくなります。
AIが一部の業務を代替すれば、より多くのアカウントを購入する必要性が薄れる可能性もあります。だからといって、アカウント単位の課金が直ちに機能しなくなるという意味ではありません。どの業務をどれだけ自動化するか、アカウントの代わりに利用量や別の料金体系で課金するかによって影響は変わります。私はこの変化を、製品機能と価格戦略を併せて見直すべき理由だと捉えています。
ソフトウェア市場全体が消えるという主張にも同意しません。Gartnerは2026年2月3日の予測で、今年の世界のソフトウェア支出が14.7%増加し、約1兆4,336億ドルに達すると見込んでいます。SaaSのみを集計した数値ではありませんが、ソフトウェア支出全体を縮小する市場と見るのは難しいということです。ただし、この支出がすべての企業に同じ割合で回ってくるわけではないでしょう。Gartnerの当時の予測
企業の顧客記録や会計・人事情報を管理するCRM・ERPは、機能をいくつか複製しただけでは代替が困難です。データを移行し、他のシステムと再連携し、従業員が新しい方式に適応する必要があるからです。一方、独立した単純作業を処理するツールであれば、顧客が他のサービスに乗り換える負担は小さいかもしれません。
私が今後確認しようとしているのは、顧客が支払いを続ける理由です。業務に必要な記録を保有しているか、他のシステムと連携して実際の業務を処理しているか、AI運用に必要なデータベース・セキュリティ・モニタリングを提供しているかを見ていくつもりです。こうした役割が弱く、価格引き上げだけに依存しているのであれば、成長見通しはより慎重に見るべきだと考えます。
今回の株価下落から私が読み取る問題も、そこにあります。成長率が鈍化した状態にAI競争が加わったとき、製品と価格をどう変えるか。SaaSを運営するチームであれば、顧客が追加購入を止めた理由から確認することが出発点になると考えます。
参考資料と関連リンク
- Bain & Company、ソフトウェア株価下落と成長・NRR分析、2026年2月9日。
- ジェイソン・レムキン、The 2026 SaaS Crash: It’s Not What You Think、2026年2月2日。
- Anthropic、Coworkの企業向けプラグインとオフィスアプリ連携、2026年2月24日。
- Docusign、Coworkとの契約管理機能連携の発表、2026年2月24日。
- Google、Workspaceプランへのai機能組み込み発表、2025年1月15日。
- Gartner、2026年ITの支出見通し、2026年2月3日。

筆者アン・グァンソプ(安光涉)は世宗大学校経営学科教授であり、INLEVEL9のリードコンサルタントである。大学では経営データ管理、ビジネスアナリティクスなど統計・データ分析を教える一方、現場ではGTM戦略とAI戦略コンサルティングを率い、技術とビジネスの接点を設計している。AI対話システムの記憶アーキテクチャ(HEMA)に関する研究で学術論文を発表し、毎日グローバルなAI論文をキュレーションするDaily Arxivプロジェクトを運営している。高麗大学校技術経営専門大学院修士課程とKMBAを修了した。著書に『思考を委ねる人々:ホモ・ブレインレス』がある。

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