第303号

9人だったスタートアップが4人になりました

最初に削られた役割と、最後まで残る役割は違いました

ビジネス9人だったスタートアップが4人になりました

エンジニア5人が去った後も有料顧客は1万人

読者さん、ノーコードウェブサイトビルダーを手がけるButternut AI(バターナットAI)は、かつて従業員が9人いました。いまは4人です。共同創業者2人が2025年末にエンジニア5人を送り出したからです。AIエージェントが彼らの仕事をこなせ、しかも1日24時間稼働できると判断したそうです。創業3年目の同社の有料顧客は約1万人で、共同創業者のシマル・シンはプロダクトが成長を続けていると語ります。

ウォール・ストリート・ジャーナルが最近、こうした企業を取り上げました。採用広告を出す前に、この仕事をAIが代行できないかまず自問する初期の創業者たちです。中にはすでにいた従業員を送り出したところもあれば、外注先や代理店との契約を打ち切ったところもあります。目標は、可能な限り長く小さな規模にとどまることです。

小さなチームが大きな売上を上げたという話は、もはや目新しいものではありません。今回の記事で注目すべき点は2つあります。どのポジションが真っ先に削られたのか、そしてこれらの企業がいつまで小さくとどまり続けられると記事の中の投資家たちが見ているのかです。

最初に削られたのは依頼を受けて成果物へと変える仕事だった

Slack上で働くAI「チームメンバー」を開発するLindy(リンディ)は、従業員20人強で、5,000万ドルの資金調達を受けました。2026年1月にプロダクトの方向性を転換した際、マーケティング担当者を数人送り出しました。その後、累計ユーザー数は50万人まで増えましたが、マーケティングは2人とAIエージェントだけで回し続けました。開発者は今も採用していますが、マーケティングの席を再び埋めることはありませんでした。

Lindyのグロースマーケティングマネージャー、ハニーン・アザールはその変化をこう説明します。以前は1人がマーケティングのデータダッシュボードを作っていましたが、「いまやそれはプロンプト1つ」だと言うのです。コンテンツや動画制作を委託していた外部のクリエイティブ代理店も5社から0社になりました。動画はAI動画生成で作っているそうです。

AIエージェントで未収金の回収を代行するAgentCollect(エージェントコレクト)は、最大50人から約30人へと人員を減らしました。大部分が自動化されたポジションとしては、請求業務コーディネーター、顧客通話の品質評価担当者、プロダクトマネージャー1人が挙げられます。CEOのジョン・バナーは、コストを節約するためではなく、従業員は創造性と判断力が必要な仕事に就くべきだという採用原則によるものだと説明しています。

並べてみると共通点があります。誰かが必要なものを伝えると、それを受け取ってダッシュボード・動画・請求連絡・通話採点表といった成果物に変換していた仕事です。依頼と成果物の間で受け渡しや手直しをしていたポジションが真っ先に削られました。

ただし、2つの視点を併せて見る必要があります。Lindyの人員削減は、プロダクトのピボットと同じ時期に行われました。AIだけを理由にした決定ではないということです。また、代理店5社が0社になった変化は、従業員数には現れません。会社の人員表だけを見ていては、この会社が外部に向けて減らした仕事の規模は見えてきません。その仕事が減った痕跡は、外注として働いていた人たちの方に残ります。164号で取り上げたフリーランス開発者の単価の話は、同じ潮流の裏返しです。

平均32.5人から20.7人へ、その数字には金利も混ざっている

記事にはLinkedInの分析も紹介されています。創業初年度に従業員5人以上だった米国のスタートアップを創業年ごとにグループ化し、3年目の平均人員を比較しました。2018年に創業した企業は3年目に平均32.5人でしたが、2022年に創業した企業は20.7人でした。米国のスタートアップの平均人員は、2021年にピークを迎えた後、減少傾向にあるといいます。

この数字をAIの効果としてのみ読み解くのは早計です。2018年創業の企業の3年目は、おおむね2020〜2021年です。ベンチャー資金が最も潤沢だった時期です。2022年創業の企業は、金利が急激に上昇した後に成長しました。採用を手控えさせた力にはツールの変化と資金環境の変化の双方が含まれており、この比較だけから両者を切り離すことはできません。

Yコンビネーター1が挙げた事例にも同様の慎重さが必要です。2024年のプログラムを経たEmergent(エマージェント)は15人で年換算売上21,500万ドルに達し、同年のプログラムを経たRetell AI(レテルAI)は約40人で6,000万ドルに達したといいます。小さなチームでも大きく稼げる証拠にはなりますが、アクセラレーターが自ら選別した成功例です。少人数で始めて静かに姿を消していった企業は、このリストには載っていません。

小さくとどまれる限界は顧客と投資家が決める

では、これらの企業はどれほど長く小さくとどまり続けられるのでしょうか。記事に登場する投資家たちの答えは、モデルの性能よりも市場の方を向いています。

ファーストラウンド・キャピタルのリズ・ウェッセルは、企業タイプ、プロダクト、そして売上が拡大するスピード次第だと見ています。爆発的に成長している企業は、今なおトップクラスのエンジニアの獲得を巡って競い合っていると指摘します。

カウボーイ・ベンチャーズの創業者アイリーン・リーは、より具体的な境界線を引いています。いまや共同創業者2人いれば、プロトタイプを作り、顧客の手に届け、反応を確かめるところまでは人を雇わずに進められます。しかし、事業はある地点で人員を増やさなければそれ以上成長できず、法人顧客を相手にする場合は特にそうだといいます。年間6万〜7万5,000ドルの契約を中堅企業や大企業に売る際、買い手側は人がいる会社から買いたがるというのです。

出資者側の基準もあります。リーは、シリーズA3を受けるには、ベンチャーキャピタルは初年度売上400万〜500万ドルを期待するが、人手をかけずにこの数字を作るのは極めて難しいと語ります。

法人顧客が人を求めているという話は、反対側からも見て取れます。197号で取り上げたように、マイクロソフトやAWS、OpenAI、Anthropicは今年、顧客企業の中にエンジニアを送り込む組織を相次いで立ち上げました。AIを最も巧みに作る企業たちでさえ、大型契約の前では人を前面に押し立てているのです。

新人にすべき説明がClaudeへの説明と同じだった

記事の最後に登場するのは、まだ投資家と会っていない1人創業者のアドヴァイト・パリワルです。複数のAIエージェントと対話する一般消費者向けモバイルアプリを開発しており、OpenAIのCodexを自社の最高技術責任者(CTO)と見なしているといいます。従業員を雇う代わりに、ClaudeとCodexのサブスクリプションを20契約回しています。

彼は過去1年間で、ソフトウェアエンジニアの候補者4人と面接しました。ベルギーの14歳の応募者もいたそうです。しかし結局、誰も採用しませんでした。人間に与えるべき指示の量がClaudeに与える量と同じであり、Claudeの方が速く答えたからという理由でした。

tiny startups getting smallerこの比較は、現時点でのコストだけを測っています。新人に多くの説明を要するのは、その人が仕事を学んでいる最中だからです。1人で会社を切り盛りする創業者にとって、その説明時間は耐え難いコストであることは確かです。ただし、誰もが同じ計算をすれば、説明を受けながら仕事を学んでいたポジションが丸ごと消え去ってしまいます。154号で取り上げた「学びの梯子」の問題が、スタートアップ規模でもそのまま現れているわけです。

Oswarldの視点

私は企業向けの納品やコンサルティングを設計する際、モデルは常に向上し続けるという前提を置いて準備します。ですから、人を雇う代わりにサブスクリプションを増やす創業者たちの計算は、不自然には見えません。依頼を成果物へと変える仕事は、モデルが進化するほどさらに多くが代替されていくはずです。

しかしこの記事には、モデルが向上しても動かない一線が見えます。顧客が契約書にサインする前に誰と会いたがるのか、投資家がどの売上規模から人員を期待するのかです。この一線は、モデルの性能ではなく、売り買いする人たちの間の信頼と商習慣が決めています。

したがって、「この仕事をAIができるか」という問いだけで組織を設計するのは片手落ちだと考えます。併せて問うべきは、「この仕事を誰がやったのか、顧客は確かめたがっているか」です。前者の問いに「はい」と答えるポジションは減り続けるでしょうし、後者の問いに「はい」と答えるポジションは、会社が大きくなるほどむしろ増える可能性があります。

おわりに

Butternutの4人、Lindyのマーケター2人、パリワルのサブスクリプション20契約は、小さくとどまることが可能であることの証拠です。同じ記事の中で投資家たちは、その可能性がどこで止まるのかも語っています。小さな会社の人員数は、AIの実力と同じくらい、その会社が誰に何を売っているのかを示しています。


💬 いま携わっている仕事の中で、AIへと引き渡された仕事と、顧客が今なお人間から受け取りたがっている仕事にはそれぞれどんなものがありますか? コメントでお聞かせください。

📨 採用計画を悩んでいる創業者やチームリーダーが周囲にいらっしゃいましたら、ぜひこの記事を共有してください。


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参考資料と関連リンク

  • ウォール・ストリート・ジャーナル、『These Tiny Startups Are Getting Even Smaller With Help From AI』(2026年)。Butternut AI・Lindy・AgentCollectの事例、LinkedInの分析、Yコンビネーターの事例、投資家の発言の出典です。
  • INLEVEL9 Letter 182号「1人ユニコーンはいないのに億万長者は2倍になった」
  • INLEVEL9 Letter 197号「6,000人を他社へと送り込んだマイクロソフト」
  • INLEVEL9 Letter 164号「屋上部屋の開発者はなぜ毎晩配達をするのか」
  • INLEVEL9 Letter 154号「フェラーリのデザイナーは今も鉛筆から始める」

アン・グァンソプ(Oswarld)のイラスト

著者 アン・グァンソプ(Oswarld) は世宗大学校 兼任教授、INLEVEL9 戦略コンサルタントです。経歴、研究、著書、最近の活動は著者紹介で更新しています。 最近の活動 · 2026年7月:HEMA-2: A Consolidation-Aware Tri-Memory Architecture with Multi-Channel Scheduling for Lifelong Conversational AI。

📝 用語解説

각주

  1. Yコンビネーター(Y Combinator):初期スタートアップに投資し、数カ月間の集中育成プログラムを運営する米国のアクセラレーターです。 ↩

  2. 年換算売上(annualized revenue):直近1カ月のような短期間の売上を1年分に換算した値です。実際に1年間で稼いだ金額とは異なる場合があります。 ↩

  3. シリーズA:シード投資の次に受ける、最初の本格的な機関投資家ラウンドです。 ↩