第302号

クアルコムがファーウェイの米国特許を買い取ります

プレスリリースに書かれていない金額と資金の流れを読み解いてみました

ビジネスクアルコムがファーウェイの米国特許を買い取ります

2001年に特許料を支払っていた企業が、今度は特許を売却

読者さん、10月5日にファーウェイとクアルコムが共同プレスリリースを発表しました。両社が複数年にわたる特許クロスライセンス1契約を締結したという内容です。対象分野は5G、コンピューティング、AI、ネットワーキングです。

ここだけを見れば、業界では珍しくないニュースです。通信特許を多数保有する企業同士は互いの特許を利用し合い、数年ごとに契約を更新するからです。ところが、同じ文の後ろにもう一節付け加えられています。クアルコムがコンピューティング・AI・ネットワーキング分野におけるファーウェイの米国特許の一部を買い取るというくだりです。

ファーウェイがクアルコムに初めて特許料を支払ったのは2001年です。ファーウェイが初めて特許料を受け取ったのはそれから10年後の2011年で、相手はモトローラでした。長年にわたりファーウェイは主に支払う側だったのですが、今回の発表では米国企業がファーウェイの米国特許を購入する側として名を連ねました。

今回のレターでは、このニュースを3つに分けて読み解きます。両社が直接発表した内容、メディアが関係者の話を引用して報じた内容、そしてまだ誰も公開していない内容です。これら3つが混ざり合い、発表当日から的外れな数字が一人歩きしているからです。

共同プレスリリースに記されたこと

発表文は短いものです。契約内容はファーウェイの発表文にあるQ&Aに、2点に整理されています。

  1. 5G・コンピューティング・AI・ネットワーキングなど、複数の技術分野にわたる両社の特許ポートフォリオのクロスライセンス
  2. クアルコムによるファーウェイの米国特許の一部の買い取り(コンピューティング・AI・ネットワーキングおよびその他の技術分野)

取引は必要な規制当局の承認を得た後に完了すると記されています。両社がFRAND2原則に合致したライセンス慣行を守るという文言も盛り込まれています。

引用コメントはほぼ対称的です。ファーウェイのアラン・ファン最高知的財産責任者は、5G標準に採用されたポーラーコード3などの自社技術を引き合いに出しながら、今回の契約がファーウェイの技術の価値を示すと同時に、クアルコムの基礎的な貢献をも認めるものだと述べました。クアルコムの技術ライセンス部門を率いるジョン・ハン副社長は、今回の契約がクアルコムの5G技術におけるリーダーシップと5G標準必須特許(SEP)4ライセンスプログラムの成果を再確認するものだとし、ファーウェイの知的財産も認めるものだと付け加えました。

二人とも相手を「認める」という言葉を交わし合っています。それぞれが自らの株主や政府に対して「自社の技術が認められた」と説明できるように作成された文書です。その一方で、この文書には金額も、契約期間も、どのような特許を何件譲渡するのかも、結果としてどちらがどちらにより多くのお金を支払うのかも書かれていません。

21カ月間途絶えていた契約

両社の間で特許契約が結ばれるのは、これが初めてではありません。2020年7月、Qualcommはファーウェイとの紛争を解決する合意に達し、長期のグローバル特許ライセンス契約を締結しました。2020年1月1日以降の販売分から適用される契約でした。この契約は2024年12月31日に満了を迎えました。満了期日は両社の発表ではなく、ファーウェイとネットギアをめぐる欧州統一特許裁判所の判決文を通じて明らかになりました。

Qualcommの開示資料にもその痕跡が残っています。Qualcommは2025会計年度第2四半期(2025年1〜3月)から、特許ライセンス部門の売上にファーウェイからのロイヤルティが含まれなくなると明らかにしました。契約が満了したためです。バーンスタイン・リサーチは、2024年にファーウェイが支払うロイヤルティがQualcommの1株当たり利益のうち10〜15セントを占めると推定していました。

チップの販売はそれよりも先に途絶えていました。2024年に米商務省がQualcommによるファーウェイ向けの4Gチップ輸出許可を取り消し、Qualcommはその年以降、ファーウェイからの製品売上が発生しないと見込んでいました。ファーウェイはすでに独自設計したKirinチップを搭載した5Gスマートフォンを投入していました。

まとめると、2025年初頭からQualcommはファーウェイからチップ売上も、特許料も受け取れなくなっていました。今回の契約がその空白まで埋めるものなのかは、まだ分かっていません。新契約が2025年以降の販売分まで遡及して適用されるのかは発表されていません。

ファーウェイが個別に強調した事実もあります。ロイターの報道によると、ファーウェイは今回の契約が、Qualcommと結んだ特許契約の中で初めて5G技術を含むものであると明らかにしました。

69億ドルは今回の契約金額ではありません

発表当日、中国のSNSでは「Qualcommが69億ドルを支払ってHuaweiの特許を買った」という投稿が急速に拡散しました。数字自体はHuaweiから出たものに間違いありませんが、意味が異なります。

Huaweiは今回の取引が完了すれば、自社の特許ライセンス契約全体の累計総額が69億ドルを超えると見込んでいると述べました。 Qualcommとの契約一件ではなく、Huaweiがこれまで結んできたすべてのライセンス契約を合算した値です。ブルームバーグもHuaweiの広報担当者の発言を同じ趣旨で伝えています。 今回の契約自体の金額は、どちらの側も公表していません。

規模を見積もる手がかりはあります。Huaweiが明らかにした2024年の特許ライセンス収入は約6億3,000万ドルです。同じ場でHuaweiの最高法務責任者は、Huaweiがこれまで支払った特許料は受け取った金額の3倍近くに上ると語りました。 年間の特許収入が6億ドル台の会社が、一つの契約で69億ドルを受け取ると考えるのは辻褄が合いません。

「Qualcommが初めてHuaweiにお金を多く支払う側になった」という解釈も出ています。日経アジアやサウスチャイナ・モーニング・ポストがそのように報じました。ただし、両社の発表文には支払いの方向や純支払額の記載はありません。特許の買い取りはQualcommが対価を支払う取引ですが、クロスライセンスまで含めてどちらがいくら多く支払うのかは、公開資料からは確認できません。

クアルコムが買い手側であるということ

ライセンスと買い取りは異なる取引です。ライセンスは他社の特許を使ってもよいという許諾を得ることであり、買い取りは特許の所有者が変わることです。所有者になれば、その特許で他社とライセンス契約を結ぶことも、侵害を主張することもできます。発表資料では、クアルコムがどのような特許を何件買い取るのかは明らかにされていません。

ブルームバーグはファーウェイ広報担当者の言葉を引用し、クアルコムがファーウェイのロジックフォールディング(LogicFolding)技術を支える特許についてもライセンスを受けると伝えました。ロジックフォールディングはファーウェイが今年公開したチップ設計・製造方式で、回路を垂直に重ねることで信号の行き来する距離を縮め、性能を引き上げると紹介されてきました。米国の輸出規制により最先端の露光装置を導入できないファーウェイが打ち出した迂回路と読み取れる技術です。この点については共同発表資料の内容ではなく、ファーウェイ側の説明であるという点を区別しておきます。

ブルームバーグは、この取引がハート・スコット・ロディノ法(HSR)5に基づき米国連邦取引委員会(FTC)の審査を受けるとも報じました。発表資料にある「必要な規制当局の承認」が具体的にどの手続きを指すのかは、会社側は明らかにしていません。米国は2019年から技術がファーウェイへ流れる道を塞いできましたが、今回は逆方向、すなわちファーウェイが保有する権利が米国企業へと渡る取引を米当局が精査することになります。

Oswarldの視点

今回の発表で「誰が勝ったのか」よりも先に見るべきなのは、権利がどちらへ動いたのかという点です。輸出規制はチップや装置、ソフトウェアがファーウェイへ渡る道を塞ぎました。特許はそれとは異なる経路で動きます。クアルコムは2020年から2024年まで、チップ輸出が制限されていたファーウェイともライセンス契約を維持し、今回は規制当局の承認を前提に特許そのものを売買する段階にまで来ました。その経路をたどってファーウェイ側の権利が米国企業へと渡る構図であるという点において、この契約は制裁の抜け穴というより、制裁が扱っていない領域を示していると見ています。

qualcomm buys huawei patents双方が互いを持ち上げ合う共同プレスリリースでは、引用文よりも一方向にのみ書かれた単語のほうが多くの事実を教えてくれることがあります。今回は「買い取り」がその単語でした。逆に、金額のように空欄になっている箇所が数字で埋められて出回っているとすれば、その数字が元々何を指していたのかから確認してみる価値があります。

おわりに

この契約が実際に何を変えるのかは、2つの点が定まってこそ見えてきます。米当局が特許買収を承認するのか、そしてQualcommが今後の開示でファーウェイ関連の文言をどう変更するのかです。いまは「25年ぶりの逆転」といった言葉よりも、発表されたこと、報道されたこと、空白のままのものを切り分けておくほうが正確です。


💬 企業のプレスリリースを読むとき、引用文と数字のどちらにまず目が向きますか? コメントで一言教えてください。

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参考資料と関連リンク

アン・グァンソプ(Oswarld)のイラスト

著者 アン・グァンソプ(Oswarld) は世宗大学校 兼任教授、INLEVEL9 戦略コンサルタントです。経歴、研究、著書、最近の活動は著者紹介で更新しています。 最近の活動 · 2026年7月:HEMA-2: A Consolidation-Aware Tri-Memory Architecture with Multi-Channel Scheduling for Lifelong Conversational AI。

📝 用語解説

각주

  1. クロスライセンス(cross license):2社がそれぞれ保有する特許を相互に利用できるように許諾する契約です。保有特許の価値に差がある場合、一方が差額を支払うこともあります。 ↩

  2. FRAND:公正(Fair)、合理的(Reasonable)、かつ非差別的(Non-Discriminatory)な条件という意味です。標準規格に不可欠な特許は、この条件で誰に対してもライセンス供与すると約束することが慣行となっています。 ↩

  3. ポーラー符号(polar code):データを送信する際に生じる誤りを訂正する符号化方式の一つです。5G標準規格において制御情報を送信するチャネルに採用されました。 ↩

  4. 標準必須特許(SEP、Standard Essential Patent):5Gなどの通信規格を実装するにあたり、どうしても使用を避けられない特許のことです。 ↩

  5. ハート・スコット・ロディノ法(HSR Act):一定規模以上の企業買収や資産取得を行う前に、米連邦取引委員会と米司法省に事前届出を行い、定められた期間の審査を受けることを義務づける米国の法律です。 ↩